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 世の中、キャッシュレスの時代である。人との接触を最小限にしたいコロナ禍が後押しする形となり、多くの業態でクレジットカードや各種ICカード等による支払いが次第にその比率を高めている。

 この流れはバスももちろん例外ではなく、交通系ICカードを導入している事業者ではICカードによる支払いが6~9割を占めるほど急速に普及している。一方、QRコード決済など新たな方式も始まり、バスのキャッシュレス化の方向性もしっかり見据えていかねばならない。

(記事の内容は、2021年7月現在のものです)
文、写真/交通ジャーナリスト・鈴木文彦
※2021年7月発売《バスマガジンvol.108》『鈴木文彦が斬る! バスのいま』より

■交通系ICカードの普及

Visaタッチ決済の採用をラッピングでアピールする岩手県北自動車
Visaタッチ決済の採用をラッピングでアピールする岩手県北自動車

 バスの運賃支払いのキャッシュレス化自体は、1990年代を中心に普及した磁気プリペイドカードが先鞭をつけたが、非接触ICカードの開発~普及によって2000年代以降本格的に進むこととなった。

 非接触ICカード乗車券は、1998年度に山梨交通と道北バスが導入したのを最初に、鉄道にさきがけてバスで本格採用された。

 当初はそれぞれの事業者独自のシステムを構築する、鉄道のサイバネ規格に乗らないいわゆるハウスカードでスタートし、2000年代に入ってJR東日本の「Suica」を最初に全国共通化が進んだ。

 バスも2007年に首都圏の事業者が民営鉄道とともに「PASMO」を導入したのを皮切りに、サイバネ規格による共通ICカードが拡大していった。

 結果として現状は、

1.全国共通交通系ICカードに参加(PASMO・PiTaPa・nimocaなどいわゆる10カード)
2.独自のシステムをもつが10カードの片利用が可能(広島のPASPY・新潟交通など)
3.独自のシステムによるハウスカード(北陸鉄道・伊予鉄道など)

 が併存している。利用者から言えば(1)が最も便利だが、それぞれにメリットはあり、投資額の低さや定期券、独自の割引などを入れ込む容易さは(3)が最も優れている。

 筆者も当初は「カードを2枚程度なら併用することに抵抗はないと予想されるので、地域性を反映できて廉価なハウスカードの導入もあり」という考え方を持っていたが、さすがにこれだけ10カードが普及し、物販など多方面に拡充してきた現状では、少なくとも(2)の対応は必要と考えざるを得ない。

 ちなみに初期にハウスカードで導入した山梨交通や宮崎交通は、システム更新時にはそれぞれ「PASMO」「nimoca」に転換している。

■ICカードの新たな傾向

 ひとつの新たな流れはJR東日本が各地の事業者や行政と共同で導入を推進する「地域連携ICカード」である。

 これは定期券やポイントなど地域独自で必要なサービスを提供しつつ、既存の全国共通カードのインフラを活用できることでシステム投資や運用面での負担軽減を図るもので、JR東日本グループが開発・機能拡充と導入をサポートする。

 実際のICカードは各地域の事業者がそれぞれの名称で発売するが、交通系ICカードとしての実質は「Suica」と同じで、10カードと同様に共通利用できる。

 2021年3月に関東自動車・JRバス関東(栃木県内)と岩手県交通が導入、今後岩手県北自動車、青森市営、八戸市営や秋田・山形・群馬各県で拡大を予定している。

 もう一つはバス向けに機能を改良したJR西日本の「ICOCA」を直接バスに導入する方式で、まず中国JRバス山口支店管内の導入を皮切りに、近江鉄道、一畑バス・松江市交通局で2021年春スタート、今後山口県内などに拡大予定である。

 これらにより、既存の方式を合わせて数年後には全国のバスの8割程度がICカード対応になる見込みである。

■QRコードも新たな方向性

 一方、電子通貨の普及やIT技術の進展により、新たな運賃支払いシステムの導入も端緒についている。

 金沢市内で休日運行するショッピングライナー「金沢まちバス」(西日本JRバス運行)では2019年から、中国人向け決済サービス「アリペイ」「ウィーチャットペイ」を導入した。

 100円均一運賃のため、金額が読み込まれたQRコードが運賃箱に取り付けられ、利用者はスマートフォン(スマホ)などをこのQRコードにかざして読み込み、決済を完了する。単一運賃の路線では廉価で導入しやすい。スマホQRコード決済「ペイペイ」を導入したケースも出ている。

 今後、多区間運賃の収受に適合した安価な仕組みが開発されればバス運賃のQR決済も可能性があり、現在広島電鉄が将来のQRコード決済の導入を検討していると報道されている。ICカードのシステム改修に多額の経費がかかることが検討のきっかけとなったようだ。

 なお、近年各地で検討・実証実験が進むMaaSでも、総合的な交通のシームレス化の一端をバスが担うケースが多く、スマホアプリの活用による予約・決済が主流であることから、バスのキャッシュレス化の面も期待される。

■高速バスで進むキャッシュレス化

アリペイ・ウィーチャットペイのスマホなどの決済に使用するQRコードを備えた金沢市「まちバス」(西日本ジェイアールバス)
アリペイ・ウィーチャットペイのスマホなどの決済に使用するQRコードを備えた金沢市「まちバス」(西日本ジェイアールバス)

 高速バスについては、2000年代後半からWEB予約が一般化し、事前決済が普及するとともにスマホ画面の提示やチケットのプリントアウトなどによる改札で、キャッシュレス化が進んできたが、西鉄などではこれを非予約路線にも拡大している。

 JRバス関東などではWEB予約システム「高速バスネット」と連動したタブレット端末の車載(各乗務員が所持)により、乗車直前までWEB予約・決済・払戻しができるようになってタブレット端末での車内発売も可能となった。

 そのほか、高速バスネットで発券される乗車券にQRコードが表示できるようになったことから、バスに車載用QRコードリーダーを搭載、乗客がスマホ画面またはプリントアウトしたWEB乗車券のQRコードをリーダーにかざすことで乗務員のタブレット端末に接続し、確認できるようになった。

 乗務員の乗車改札や着札回収が省略され、不正乗車の防止にもつながっている。

 さらに2020年にはVisaのタッチ決済もバスに採用され始めた。

 利用者はVisaのタッチ決済対応のクレジットカード(デビット・プリペイドカード)やスマホをバス車内の読み取り端末にかざすと運賃決済が完了するもので、コロナ禍収束後の訪日外国人の利用を考えると最も手軽で対応しやすい決済方法として期待されている。

 現在バスではみちのりグループ(岩手県北自動車・茨城交通など4社)と北都交通の都市間高速バス、空港連絡バスなどで採用が始まっている。

 これも事業者側の現場対応はタブレット端末を車載するだけで、タブレット端末に必要項目を入力して運賃箱に取り付け、バスの車内無線LAN(Wi-Fi)でネット接続して使用する。初期費用がタブレット端末のみという低コストも評価されている。

 なお、鉄道の京都丹後鉄道で距離制運賃の決済にも活用されており、バスの多区間運賃にも対応が可能であろう。ただし、いざとなれば現金で購入できるICカードと違い、QRコード決済は対応カードやスマホを所持しない利用者が残ることを考慮すると、100%転換は難しい。

■常に利用者に向いた導入を

 こうした進歩がバスの新たな時代を育てていくであろうことは歓迎すべきことだが、常に視野に入れておきたい課題がある。それはさまざまな方式が混在し続けることや、反面移行期間を置かずに別システムに一斉転換してしまうと、利用者や現場にとっては混乱やストレスにつながるということである。

 例えば現在水戸、金沢などでハウスカードのICカード事業者と10カードの事業者が混在して互換性のないケースがあり、利用者に不便を感じさせるだけではなく、「使える使えない」のトラブルが発生しやすいため、現場の乗務員に負荷がかかっている状況がある。

 またある事業者ではICカードを導入したとたんに磁気カードの使用を中止したが、全車ICカード導入までにタイムラグがあった。

 そのため、同じ区間なのにあるバスはICカードのみで既存の磁気カードがNGになり、別のバスは磁気カードのみでせっかく新たに購入したICカードが使えないという、利用者にとっては非常に不親切な状態が続いた。せめて1年程度の移行期間は必要だった。

 むろん、比較的小銭レベルの低額で鉄道とバスの接続利用などが多い一般路線は交通系ICカード、高額な運賃や外国人利用が多い高速バスなどはVisaタッチといった、上手な使い分けによる併存はありうるだろう。

 より合理的かつ良いシステムに転換することは社会と時代の要請ではあるが、単純に効率性(二重投資回避など)といった視点だけでなく、利用者目線、現場目線に立った導入、転換が必要と考えられる。

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