ブルートレインの代替として成長してから30年。夜行高速バスは一定の役割を終え転換点を迎えつつある。一方、震災で新幹線代替輸送に活躍し、久しぶりに現場に活気が戻る場面も見られた。高速バスが生き残るための処方箋をまとめた。
(記事の内容は、2021年3月現在のものです)
文/成定竜一、写真/成定竜一、東北急行バス
※2021年3月発売《バスマガジンvol.106》『成定竜一 高速バス業界一刀両断』より
■収束後も完全回復しない恐れが
「コロナ後」の高速バスの需要は、どの水準まで回復するだろうか。高速バスは、コンサートなどの「都市型消費」や出張といった「地方の人の都市への足」として成長した。
だが、コロナの影響で地方在住者の都会への移動は止まっていた。収束後も、需要が完全には回復しない恐れがある。たとえば学生の就職活動で、「二次面接まではリモート」が定着するというようなケースだ。
もっとも「インターネット普及で出張が減る」と言われた20年前と比べ、高速バスの輸送人員は2倍に、東海道新幹線や航空も2割増加していたのも確かで、読みづらい。
■京急バス夜行全撤退の背景
2月15日、京浜急行バスが、夜行全路線の休止、廃止を国に届け出た(弘前線、宮古線は共同運行先による単独運行化。現在はコロナで運休中)。
同社に限らず、長距離夜行路線はコロナ前から退潮傾向だった。
理由は2つ。まず新幹線網の拡充だ。北東北、北陸、南九州の人が東阪で「朝から本社で会議」「コンサートを閉演まで楽しみ、翌日は地元で仕事」という際も、新幹線で日帰り可能になった。次に、ツーマン運行による人件費率の大きさ。損益分岐点が高く、乗車率が少し下がるだけで赤字化する。
高速バスブームの端緒となった同社の高速バス事業だが、アクアライン系統など短距離路線に陣容を絞る。そもそも多くの路線を撤退済みで、新幹線の直通がない4路線だけ残っていた。ブルートレインの代替として成長した夜行高速バスだが、30年が経過し一定の役割を終えたことを象徴している。
■苦しい夜行路線の処方箋
とはいえ、夜間の、または格安の長距離移動ニーズがゼロになるわけではなく、若年層を中心に一定の需要はある。他の夜行路線が永続するためには何が必要か。
運行面では、JR系事業者らが、広域運用と組み合わせたワンマン乗り継ぎ体制を確立し、コストを抑えている。他社でも「乗合バス型管理の受委託」活用によりワンマン化は可能だ。
ちなみに、京急との共同運行から単独運行化する弘南バスや岩手県北バスは、地元から仙台への昼行路線も持つ。後者は仙台に運行拠点もある。宮城県で乗り継ぎ体制を組めば、自社単独で少なくとも南半分をワンマン化することは容易だ。雪に備え、冬場のみツーマン運行とする方法もある。
同時に、この連載で何度も触れたダイナミック・プライシング(運賃の随時変動)で乗車率を平準化し、運賃収入を上げる工夫も必要だ。JR(関東/西日本)、京王、アルピコらに続き、宮城交通、JR東海バス、西鉄も導入を発表した。
「貸切バス型管理の受委託」活用すれば、繁忙日に続行便を積み増しすることもできる。
バス事業者の営業区域単位で細分化されている路線網も整理が必要だ(調整は困難そうだが)。既に高速バス路線許認可の基準は一般路線バスとは切り離されており、高速ツアーバスからの移行組やJR系は、夜行路線については複数県をまたがって集客し、乗車率を底上げしている。
なお、北東北は、縮小したとはいえ「夜行文化」が根強い。弘南バスは、共同運行だった「ノクターン」以外に、単独運行の首都圏路線を5系統も持つ。こちらは逆に、自社内で整理統合が進むかもしれない。
厳しい見立てを書いたが、全国の高速バスのうち、夜行便はわずか1割強。「本丸」に当たる短・中距離昼行路線の環境はもう少し「マシ」なので、それについては次号で触れたい。
2月、地震で東北新幹線が10日間運休し、各社とも臨時便、続行便の運行に追われた。東北出身の乗務員が、臨時便の乗務を自ら志願した例もあった。
被災者や影響を受けた乗客らには心苦しいが、担当営業所の士気は上がった。久々の梯団出庫に向け大人数で点呼を受ける乗務員らの引き締まった表情を見て、コロナ収束と需要回復をあらためて祈った。
投稿 コロナ前から厳しかった長距離夜行バス 生き残るのに必要なコトとは は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。