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大前純史・画第一章 北堀江にて 一 (文・永井紗耶子) 昼から降り続いていた雨が、夜になってようやく小降りになっていた。 宝暦十年、八月の末。 北堀江にある町家の軒先から、天を仰いでいたのは、縞(しま)紋を着た御店の手代(てだい)風の若い男である。 「雨、やみそうやな」 ほっと吐息した。