F1技術レギュレーションが大幅に変更された2022年に主要チームが導入したマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが評価、それぞれの長所・短所、勝因・敗因について分析した。レッドブルRB18技術レビュー(1) と(2)、フェラーリF1-75、メルセデスW13 に続く今回は、アルファタウリAT03に焦点を当てる。
────────────────────────────────
2021年にコンストラクターズ選手権6位と躍進したアルファタウリが、なぜ2022年は9位に沈んでしまったのだろう。
2022年の新しい技術規約という未知の領域に取り組むために、アルファタウリは親チームであるレッドブルのシミュレーションと設計能力に頼った。さらにトランスミッション、サスペンション、油圧関係なども規約の範囲内でレッドブルから購入した。
チャンピオンチームのエンジニアリングの知見も得られ、理論的には実に理にかなったやり方だ。しかし結果的には、イタリア・ファエンツァの小さなチームには不利な結果となってしまった。
というのもレッドブルは車体設計にできるだけ多くの時間を費やすために、パーツ生産をギリギリまで遅らせることが常態化している。レッドブル側の遅れに合わせる形で、アルファタウリも車体デザインを遅らせなければならなかったのだ。
その結果、アルファタウリはふたつの悪影響に見舞われた。
■レッドブルのパーツ設計の遅れがAT03の重量と空力に影響
まずエンジニアたちは、最終的な寸法が分からないレッドブルの部品に合わせて、自分たちのパーツを設計せざるを得なかった。そのためこれらの自作パーツは、信頼性不足を恐れるあまり、過度に大きく剛性が高いものとなった。結果的に、車体はかなりの重量増となった。
ピエール・ガスリーによると、AT03の重量は最低重量798kgを十数kg上回っていたという。2022年は22戦中7回しか予選Q3に進めなかったガスリーは(2021年は18回だった!)、「重量増のハンデキャップだけで、平均0.35秒遅かった」と語っている。
マシンが重いことで遅くなっただけでなく、タイヤの劣化も激しくなり、決勝レースのペースも落ちてしまった。
ふたつ目の悪影響は、F1マシンの性能の決め手となる空力に関するものだった。「空力担当者は、AT03の形状を最適化する十分な時間がなかった」と、チーフエンジニアのジョナサン・エドルスは説明する。
「ボディ下面のいくつかのパーツが、空力性能の決め手となる。しかしレッドブルから調達するパーツは、具体的な仕様が届くのはいつも非常に遅かった。しかも他人が計算した形状で、作業せざるを得ない。その点でも、空力に影響が出た」
それでもエドルスは、今季に向けては楽観的な見通しを示した。
「状況は変わるはずだ。1年間走り続けて、新世代マシンの経験値もかなり向上したからね。信頼性に影響を及ぼさずに、軽量化するノウハウも獲得できた。さらにタイヤがどのように機能するかもわかったので、いくつか違うことをするつもりだ」
つまりファエンツァの空力技術者たちは去年の22戦を経て、グランドエフェクトの使い方をマスターしたということだ。その結果、今季投入されるAT04では、レッドブルから購入するパーツはかなり少なくなるという。ちなみに戦闘力のあった2020年、2021年のAT01、AT02には、英国ミルトンキーンズの要素はほとんどなかった。
対照的にAT03は冒頭で述べたように、レッドブルマシンとのいわばハイブリッドだった。確かにそのおかげで、低速コーナーでは優れたメカニカルグリップを発揮できた。モナコ、バクー、シンガポールでの予選が良かったのはそのためだ。しかし高速コーナーではダウンフォースが十分でなく、特にフロントのダウンフォース不足が顕著で、セットアップに毎レース苦労することとなった。
この空力性能の不足から、第17戦シンガポールGPではノーズデザインを変更した(上写真参照)。一般的にはシーズン後半に、ここまでノーズの形状を変えることは珍しい。ノーズデザインの変更は、マシン全体の空力バランスを変える恐れがあるからだ。それほど去年のアルファタウリの空力的な発達は、遅れていたということだ。
しかし新しいパーツの導入でも、根本的なパフォーマンス不足は解消できなかった。AT03はシーズン後半、ウイリアムズやハースに対して逆に相対的パフォーマンスを低下させた。その結果、2021年より107点も少ないポイントしか獲得できず、チームは大きく衰退したのだった。