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 1月17日、佐藤琢磨がオンライン記者会見を開き、2023年NTTインディカー・シリーズへの参戦体制を発表した。

 今年はチップ・ガナッシ・レーシングに移籍し、カーナンバー11のマシンをドライブ。ルーキーのマーカス・アームストロングとシートをシェアする形でオーバルの5戦に出場する。

 昨年まで在籍していたデイル・コイン・レーシング・ウィズ・リック・ウェア・レーシングからは、わずか1年で離れることになった。琢磨がこの決断を下すまでにどれほどの葛藤があったかは、この発表までに要した時間でわかるだろう。

 2010年にインディカーシリーズにデビューしてから13年間フルタイムで参戦し、昨年まで215戦に出場してきた。インディ500優勝2回を含む通算6勝、ポールポジション10回という輝かしいリザルトを残しているが、ここへ来てオーバルの5戦のみの出場というのは、毎晩TVで楽しみに応援していたファンも、些か寂しい気持ちを拭えないだろう。

「この決断をするのはもちろん簡単なことではなかったです。デイルと1年間戦って満足できなかった部分を、今年に向けてピースを揃えていこうとしましたが、どうしても揃えることのできないものもありました」

「そして原点に立ち返って自分の考えられる選択肢の中で、チップ・ガナッシのチームとスポンサー、関係者の皆さんがこのような機会を与えてくださったことをうれしく思います」と琢磨は語った。

 この機会に恵まれたのは、琢磨が二度のインディ500チャンピオンであるからに他ならない。チップ・ガナッシのマネージングディレクター、マイク・ハルも「琢磨がカーナンバー11に乗って2023年のオーバルに出るのは素晴らしいチャンスだ。彼はインディ500の勝ち方を知っている」とかつてのライバルの将が歓待の意を表している。

 琢磨も「このチームに加入できることに言葉では言い表せないほどの期待と感激を抱いています。何十年間もシリーズのトップに君臨しているチームで圧倒的な競争力の高さをリソースを誇っています」

「僕にとってはオーバルだけというのは新しい経験になりますが、インディ500を勝ったチームメンバーとチームメイトが大きなアドバンテージになるのは間違いなく、チャレンジが始まるのを待ちきれない気分です」と意気高揚しているのがわかる。

 ここまでライバルとしていくつもの勝負を繰り広げて来た琢磨とチップ・ガナッシ。

 2012年のインディ500ではファイナルラップで琢磨がダリオ・フランキッティのインに飛び込んだり、2020年のインディ500はスコット・ディクソンとの真っ向勝負を制した。

 数々の名勝負を繰り広げて来た両者が、ついに一緒にインディ500を戦うことになったのだ。琢磨はチップ・ガナッシの強さを知り、チームは琢磨の速さを知る。考え得るベストのコラボレーションだ。

 2022年のインディ500はチップ・ガナッシの独壇場のレースだった。ポールポジションはスコット・ディクソンが取り、優勝はマーカス・エリクソン。それに21年のインディカーチャンピオン、アレックス・パロウがいて、今年琢磨が加わる。ホンダエンジンユーザーの中では最強の布陣だろう。

 琢磨の発表を受けた後、チームメイトとなるアレックス・パロウは「いらっしゃい」と日本語でツイート。これはおそらく 英語のWelcomeが翻訳されたもので、「ようこそ」と訳されるのが本来の意図だろうが、こんな愛嬌が見え隠れするのも、歓迎の表れだろう。

 出場するインディ500以外に目を転じてもテキサス、アイオワ、ワールド・ワイド・テクノロジーと大小3つのトラックすべてで、琢磨はポールポジションを奪ったことがあり、優勝と表彰台の経験もある。これ以上の好条件はないのではないか。

 レーシングドライバーとして「一生に一度のチャンス」が琢磨に訪れた。まもなく46歳となるベテランドライバーのその先に三度目の栄光はあるのだろうか。答えは4カ月後に出るだろう。