もっと詳しく

 ファンのために熱いレースを展開してくれるスーパーGTドライバーたち。SNS等でも散見されますが、所属するチームやメーカーによって差はあれど、多くのドライバーが“繋がり”をもっています。そんなGTドライバーたちの横の繋がりから、お悩みを聞くことでドライバーの知られざる“素の表情”を探りだす企画をお届けしております。今回はNISMOのロニー・クインタレッリ選手から、GAINERの富田竜一郎選手に繋がりました。

 しばしばSNS等でも見られる、気になる2ショット。「へえ、あのドライバーたち、仲良いんだ」とファンの皆さんも驚くこともあるのでは。そんなGTドライバーの繋がりをたどりつつ、ドライバーたちの“素”を探るリレートークがこの企画です。これまでの連載は、まとめページを作りましたのでぜひご参照ください。

スーパーGTドライバー勝手にお悩み相談ショッキングの連載まとめページです。
まとめページは画像をクリックorタップ!

 前回、第8戦もてぎ翌日のカーボンニュートラルフューエルテストのときに取材したロニー選手。その前日の第8戦の決勝レース中、TANAX GAINER GT-RとUPGARAGE NSX GT3のバトルを観て驚いたというロニー選手が、富田選手に「どうしたらあんなバトルができるのか」を聞いてみたい……というのが質問です。スーパー耐久第7戦鈴鹿の際に富田選手にお時間をいただきまして、質問をぶつけてみました。

もちろん観た方多数とは思いますが、ロニーさんの話に出てきたバトル↓

 ではどうぞ!

* * * * *

──お時間いただきまして、ありがとうございます。ご存知の『スーパーGTドライバーお悩み相談ショッキング』なるコーナーの取材でまいりまして。
富田竜一郎さん(以下富田さん):正直、こんな短いスパンで2回目が来ると思っていなかったので(笑)、まず回したのは誰だってのと、内容はいったい何なのか疑問がいっぱいなんですけど(笑)。僕が読んだなかでは、井口卓人くんからJPに回ったのまでは知ってるんですが、そこからどうやって僕に来たのかと……。

──え〜と、JPからアウグスト・ファーフスさんに回りまして、そこからロニー・クインタレッリさんに回って、ロニーさんからここに来たよ。
富田さん:んなんでぇ(笑)!? 外国人ドライバーで続いてきて、いきなり僕に回るのもおかしいし、ロニーさんと僕接点ないですよ。

──ロニーさんはカーボンニュートラルフューエルのテストの時に取材したんだけど、その日の朝にホテルのロビーで声かけられたでしょ?
富田さん:会いました。ロニーさんから話かけられるの珍しくて、『レース中何かやったかな?』と戦々恐々としていたら、『昨日のレースすごかったね!』って言われて。『ありがとうございます』って答えてたんですが、僕としては抜かれていただけだし、褒めていただくのはすごくありがたかったんですが、その時の状況を考えると、チャンピオンを獲れるか獲れないかであそこは守らなければいけない理由があったことを話しました。

2022スーパーGT第8戦もてぎ TANAX GAINER GT-R
2022スーパーGT第8戦もてぎ TANAX GAINER GT-R

■シミュレーターとヨーロッパ挑戦で得たもの

──そんなわけで、ロニーさんからの質問というかなんというか、富田さんはレーシングカートもやっていない、特殊なキャリアをお持ちじゃないですか。『なのになぜあんなすごいバトルができるのか』を聞いてくれと言われました。
富田さん:そんな大層なもんじゃないですよ(苦笑)。それこそ、僕は人よりも経験値が少ないこと、年齢を重ねてからのキャリアだったので、そのビハインドはいろんなところでデメリットとして感じることが多いんです。それを跳ね返すためには何をしたらいいのかを日頃から考えています。

 今で言えばシミュレーターとかで、『こういうシーンで抜きたいとき、守りたいときに何をすべきか』を考えながらレースをするクセがついていると思います。最近は家庭もあって長くシミュレーターはできていませんが、レースを始めてすぐの頃はすごく役に立っていましたね。

 あと、最近で言うとGTワールドチャレンジ・ヨーロッパで3年間戦いましたが、どうしても日本でレースをしていると『ここで無理をする必要はない』と言われることがあります。無理をしなかった分は誰が取り返すのか? というと、チームメイトになってしまいますよね。

 でもヨーロッパでは『絶対に抜いてこい』、『絶対に抜かせるな』と言われるんです。そう言われてやってきて、どんな状況であろうが前にクルマがいれば抜くし、うしろに来られたら抜かせないという、気持ちの変化がすごく大きかったですね。だからああいう状況でも耐えられるような技術やメンタルはそこで育ったんじゃないかと思います。

 レースで戦った年数で言うと、いま組んでいる大草(りき)君とかとほとんど変わらないと思いますが、それこそ宮田(莉朋)君じゃないですが、やっているレースの数で言うと、一時期は毎日朝からシミュレーターでレースをして、オーバーテイクやディフェンスのやり方を考えながらやっていたので、そういうのが今レースで活きているんだと思いますね。

──なるほど。シミュレーターとヨーロッパの経験が大きいと。
富田さん:あとは、もともと自分が最初から大きなビハインドをもってレース人生を戦ってきて、それがやはりマイナスに働くことが多いんです。それをどうにかして他の人と同じにするために、1周1周、毎レースを大事にして戦っているのが大きいです。決して他の人が大事にしていないワケではなく(笑)。他の人より時間を大事に使えているのではないでしょうか。僕からしたらレースができているのが奇跡みたいなものなので、ロニーさんから大層に聞いていただくほどのモノではないです(笑)。

──よく分かりました。お悩みは解決ということで。
富田さん:これで合ってますかね(笑)。でも、そういうことではないでしょうか。負けたくないし、抜かれたくないですからね。『ここで無理してどうなるの?』という人もいますが、じゃあ誰がそれを取り返してくれるの? というのが大きい。どうしてもトラックポジションを取りにいきたい……という気持ちが強いし、チームメイトが楽になりますからね。常に戦う気持ち、負けない気持ちを持って、最後まで意地を張ろうと思っています。

──ちなみにあのバトルは、もてぎだから実現したところはある?
富田さん:いえ、もてぎは正直いちばん厳しいかもしれません。あの時点でブレーキングで頑張るといっても限度がありました。海外に行って、以前よりもブレーキでいけるようになりましたし、制動屋さんが良いパッドを作ってくれているのでアドバンテージはありましたが、もてぎでいちばん大事なのはトラクション。ブレーキで頑張れたところでトラクションがなくなっていましたからね。富士の方がGT-Rは頑張れたかもしれませんし、あと10周短いレースだったら良かったかも。

スパ24時間に挑みクラス表彰台を獲得した富田竜一郎
スパ24時間に挑みクラス表彰台を獲得した富田竜一郎
富田竜一郎がドライブするWRTの33号車アウディR8 LMS
富田竜一郎がドライブするWRTの33号車アウディR8 LMS

■モチベーションの保ち方

──そんなこんなで悩み、ない? 当然考えてきてくださいましたよねぇ?(この取材はカーボンニュートラルフューエルテストの際に『やるよ』と告げていました)
富田さん:想定もしていなかったし、回す相手も考えてませんでしたし(笑)。悩みは山ほどあるんですが、公にする内容もあまりないしなぁ……。最近マジメな内容の人、多いですよね?

──そうでもない。ファーフスさんからロニーへの質問は『日本でいちばん美味しいピザ屋を教えろ』だったし。
富田さん:(笑)。まず聞きたい相手を考えた方がいいですよね。

──たしかに。また野尻(智紀)さんいっときます?
富田さん:いや、そこはもういいんです(笑)。なんというか、死ぬほど話しているので、お互いに理解しているなかで悩みをぶつけても『ああコレか』となっちゃうし(笑)。

 ……えと、これ悩みじゃないんですけど、基本的に年上と仲良くできないんですよ。いま遊んでいたり一緒にいたりするのは年下ばかりなんです。安田(裕信)さん、千代(勝正)さんはちょっと例外ですが。毎日シミュレーターやっているのも莉朋、菅波(冬悟)くん、福住(仁嶺)くんの4人でしゃべることが多くて。彼らは悩みがあるかもしれないけど、僕が言うことでもないし……。

──そらそうだ。
富田さん:まだ出ていない著名なドライバーいます? 平峰(一貴)とか。

──出てないねぇ!
富田さん:タイミングいいし、そうしましょうか。何を聞こうかな。実は僕と平峰君のデビューは、2014年の鈴鹿なんですよ。彼は高森(博士)さんと仲が良くて、僕がDIJONからGTに出る前からちょこちょこ話はしていたんです。だから個人的には同期デビューで、頑張って欲しいと思っている存在なんです。

 で、悩みというか……いま、レースに対するモチベーションが見えづらくなっているが、それは個人的な問題というより、取り巻く環境や自分でどうにもできないところで難しさを感じているんです。そこでモチベーションをどう維持すれば良いか。

 平峰君はすごくモチベーションが高いけど、自分も結果を出したいし、チームやチームメイトに喜んで欲しいんですが、いま『自分のために走りたい』モチベーションが低い。いまのGTやS耐のように、若手やチームを引っ張りながらというのがあるから踏ん張っていられるけど、今は何を目標にレースをするかが難しくなっているんです。

 そういう状況は平峰君も一度はあったと思うんです。一度メーカーを抜けて、また別のメーカーにも入っていますが、年齢の面もあるし、GT500をやれているからモチベーションは高いと思う。自分の場合はこれから500というのはないけど、何をモチベーションのもとにしているのかを参考にしたいです。

 そういうのが若手に伝わると、目指せるところもできると思うし、ここから何をしようかというのを参考にできると思います。

2022年は大活躍をみせたTANAX GAINER GT-Rの富田竜一郎/大草りき/塩津佑介
2022年は大活躍をみせたTANAX GAINER GT-Rの富田竜一郎/大草りき/塩津佑介

■地上波テレビって、まだまだ影響大きいですよね

──お金ってところはない?
富田さん:そらそうなんですけどね。でも今のレース業界で、野球やゴルフみたいなお金を手にできることはなかなか難しい。一般サラリーマンの方に比べればもちろんもらえていますが、一攫千金! みたいなところはない。ドライバーひとりの力ではなかなかそれは変えられない。

 レース自体を有名にするとなると、草の根も重要になると思います。サッカーだったら、高校サッカーがあって、地域リーグがあってJFLがあって、Jリーグも1部から3部まである。でも日本のモータースポーツだったら、スーパーGTがあって、スーパーフォーミュラがあって、スーパー耐久はみんな水素なんでしょ? くらいの認識だと思うんです。

 あと日本人ドライバーだったら小林可夢偉、中嶋一貴、佐藤琢磨、片山右京、鈴木亜久里、中嶋悟……くらいは分かると思うけど、それ以上ではないと思うんです。海外でもスーパーフォーミュラもスーパーGTも有名ですけど、そのチャンピオンが誰かはみんな知らない。

 もっと大きな観点から『日本のレース素晴らしいよね!』だけではなく、誰が観ても『すごいよね』というステージにいかないといけない。自分たちで『すごいですよ』と言うのは少し違うと思っていて、もっと一般の知名度も上げないといけないと思います。それはドライバー頼りではないと思っていて、いくらSNSの時代とはいえ、個人で頑張っても業界全体には繋がらないと思います。

 だから、ぜひ3メーカーとGTAさん、JRPさんで、月曜夜9時のドラマ枠を獲得していただいて、有名俳優さん、女優さんでレースを題材にしたドラマを作ってもらいたいです。それに付随して、国内モータースポーツを総合的に取り上げる番組を、同じチャンネルに作って欲しいです。毎週どこかしらでレースはやっているわけで、ネタは困らないと思いますし。

──地上波テレビの影響力って、まだまだ大きいよね。
富田さん:そう。結局、100万人登録しているYoutuberって、僕知らないんですよ。さらに1000万人います……と言っても結局やっぱり僕は知らない。テイラー・スウィフトのミュージックビデオの方が有名なんですよ(笑)。どんな有名なYoutuberがいようと、その人のファンが観ているだけであって、そのカテゴリーにハマらなければ意味がない……とまでは言いませんけど、まだまだ地上波のテレビは大きいんです。

 時代はSNS……と言ってますが、地上波があった先にSNSがあると思っているので、地上波、BSをもっとうまく使って欲しいですし、今しかないと思っています。そうしないとモータースポーツがダメになってしまう。オートスポーツwebさんも含めて、モータースポーツ業界全体でひとつの業界を認知してもらえる場をみんなで作りたいですね。

2022年はTANAX GAINER GT-Rをドライブした富田竜一郎
2022年はTANAX GAINER GT-Rをドライブした富田竜一郎

■モータースポーツファンも一般ファンの方も面白いラインがあるはず!

──たしかに、カテゴリーごとにやっている場合ではない気もする。
富田さん:ドライバーも、3カテゴリー出ているドライバーもいますし、少なくとも2カテゴリーは出ている人が多いじゃないですか。そういうのをうまく使ってお互いうまく連携して、まずモータースポーツ業界全体の地盤を立ち上げて、大きく広げてから個々のことをやっていってほしい。僕がドライバーを止めるまでに、もっと良い光を作りたいです。

──ちなみに先日、ラリージャパンの後に、テレビ朝日で番組をやっていたでしょ?※ あれ観てすごく良かったと思っているんだけど、どう思う?
※11月13日にテレビ朝日系で放映された『世界ラリー日本大会 ラリージャパン2022』
富田さん:僕も観てました。素晴らしかったと思います。僕が観ても面白かったし、ビギナーの方が観ても面白かったと思います。もう少し実際に競技に出ていた人たちなりが出演しても良かったと思いますが、ああいうのを毎週やったらいいと思いますけどね。

 一般の人が観ても面白くて、モータースポーツが好きな人が観ても面白いラインってきっとあると思うんです。そこを探らないといけないと思っています。なんとかしたいですし、してほしい。企画してくれるんだったら企画したいくらいです。

──富田プロデューサーだ。富田P。
富田さん:いやいや、草案くらいで(笑)。そういうのをみんなのお悩み相談ショッキングを読んでいて思うんですよね。それに、もっと海外をお手本にしてもいいと思うんです。レース自体海外から来たものだし、海外の方が新しいことをやっている部分が多い。日本が進んでいる部分もあるんですが、お互いに良いところは拾いあうべきだと思います。できることもできないこともあるとは思いますけどね。

──最後はちょっと大きな話にもなりましたが、ありがとうございました!

* * * * *

 そんなこんなで、次回は2022年GT500チャンピオンのひとり、平峰一貴選手が登場します。お楽しみに!