利用者の減少と道路環境の両面から、乗合バス車両のダウンサイジングは1970年代の終わりごろから、大型から中型、中型から小型へと進んできた。
そして2000年代に入って自治体主導のコミュニティバスが全国的に展開される中で、この流れは明らかとなり、小型バスよりさらに小さいトヨタハイエースなども数多く使用されている。
しかし運賃面と採算性、すなわちコストバランスや、ひいては持続性を考えたとき、それはバスとして正しい選択なのだろうか。
(記事の内容は、2022年7月現在のものです)
文、写真/鈴木文彦
※2022年7月発売《バスマガジンvol.114》『鈴木文彦が斬る! バスのいま』より
■利用者が減る=バスを小さくする、でよいのか
「乗っているお客さんが少ないのだから、バスを小さくすればいいんじゃないの?」
いろいろな会議などで、住民・利用者代表の委員などからよく聞く意見である。いや、行政も含めておそらく世間一般の認識はそうなのだろう。
しかしバス路線はいろいろな性格を持っている。日中の便を見るとガラガラかもしれないが、朝夕の通学時間帯には高校生で満杯になることも多い。
確かにバスをハイエースクラスにすれば車両購入費や燃料代などは縮小が可能だが、経費の中で最も高い比率を占める人件費は、運転士が1人必要である以上変わらない。であればまさに“大は小を兼ねる”を地で行く話になるが、全体を大型で運行したほうがより効率的ということになる。
「たくさん乗る朝夕は大型を走らせ、お客さんの少ない日中は小型を走らせれば……」という意見も特に市民からよく出る。
一見理にかなっているように見えるが、そのためには大小別の車両を用意して、片方が稼働しているときには片方を遊ばせることになる。かえって倍の経費がかかる話である。そんな議論をあちこちで長年繰り返してきた。
■行き着いたところがハイエースの路線バス
乗合バスのダウンサイジングは1970年代後半、全幅2.3m×全長9mクラスの中型バスに始まった。
当時の中型の採用は利用者数というよりワンマン化を進めるにあたって、道路環境の基準にバスの方を合わせる狙いがあったが、全体に利用者数が右肩下がり傾向の中で、1980年代以降は地方を中心に中型バスが乗合バスの主力へと転換していく。
1990年代後半~2000年代にかけて、全国的によりきめ細かく地域に入っていく自治体主導のコミュニティバスが拡充していく中で、一般の過疎路線を含めて全幅2.08m×全長7mクラスの日野リエッセがベストセラーとなった。
全幅2.3mの中型断面の7m車も一定のシェアを持ったのち、現在このクラスは、交通バリアフリー法の関係もあり、日野ポンチョが主流となっている。
そしてコミュニティバスはより狭隘道路の地域をカバーすべく、一般路線は自治体補助による委託路線が増える中で財政負担を減らすため利用に見合ったサイズとすべく、さらに一歩踏み込んでワゴンタイプのトヨタハイエースを採用するケースが増えた。
おそらく全国のコミュニティバスや市町村主導の住民バス・生活バスなどと呼ばれる乗合バスの3割ぐらいは現在ハイエースで運行されているのではなかろうか。
もっとも車両制限令からすると、通行可能な道路幅員(相互通行)はポンチョ(全幅2.08m)で5.66m、ハイエース(全幅1.88m)で5.26mなので、ハイエースにしたからといって入れる地域が大きく増えるわけでもないことが多い。
■座席定員がすべてという限界
ダウンサイジングそのものが問題なわけではない。トヨタハイエースクラスの車両を路線バスとして採用する場合、その特性をきちんと把握し、適性を考えて配置しているかどうかという問題である。
まず、座席定員のみで立席をとれないという点である。
バスに分類される11人乗り以上の車種で最大でも15人、車いすリフト装備車では10~12人の定員しか取れず、近年は普通車ベースの10人乗り以下のハイエース・日産キャラバンなどを路線バスとして使用するケースもあるから、その場合旅客定員は8人程度(助手席は使わない)となる。
このため、都市圏など一定の需要のある路線では“乗り残し”を生じさせ、地方でもたまたま利用が集中すると乗れないケースが発生する。
そして定員が限られるということは、収入も限られるということである。
筆者が関わっているある市のコミュニティバスは、5路線中4路線は立席含む30人乗りの日野ポンチョで運行、道路事情でポンチョが入れない1路線を12人乗りハイエースで運行している。
ハイエースの路線は高低差のある地域でニーズは高く、“乗り残し”が恒常的に発生するほどで乗車率は常に高いのに、収入は12人(入れ替わりを考えても最大24人)×運賃額が限界なので、5路線の中で最も採算性が悪くなってしまう。
■小型に見合った運賃設定とは
そう、つまり運賃の設定が大きな要素になってくるのである。そもそも乗合バスの運賃は大量集約輸送を行うことを前提に、公共料金的な意味合いのもと比較的低く抑えられている。
だからこそ、朝夕の通勤通学輸送などで大量集約輸送ができれば、日中ガラガラでも辻褄は合うことになる。それが座席定員しか取れない小型になると、そうした集約輸送自体ができない、つまりバスの運賃では絶対に事業性が見込めないということになる。
ハイエースが使用されている自治体補助のコミュニティバスやデマンド交通などの実態を見ると、かなりの事例で1人の利用者が1回200~300円程度の運賃を負担するのに対して1000円を超える財政負担をしている。
中には1人1回の利用に対して3000円の財政負担をしているケースさえある。本当にそれは正しい(みんなに納得してもらえる)財政負担なのだろうか。
タクシーの運賃は高いと言われるが、1人の運転士と1台の車両が1人の顧客のニーズに合わせたドアtoドアの輸送サービスを提供すると考えれば、適正な対価と言えるのではないだろうか。
10人前後の座席定員のみのバスやデマンド交通などは、むしろタクシーのサービス提供の仕方に近いものがあり、バスの運賃の考え方を適用するよりタクシーをベースにできない部分をカットしていくような運賃の考え方の方が適切と考えられる。
ある市の市民アンケートの中に「小型の路線は小型に見合った運賃にすべき」という意見があって、その人の意見はだからポンチョの路線より安くすべきというのだが、一般の感覚はそうかもしれないものの、本当は逆なのである。
■適材適所でうまく小型を活用してネットワークを
ここまでの議論は決してハイエースの路線バスを否定するものではない。単一の路線をただダウンサイジングしてハイエースに置き換えるとすれば、それはいくら行政の補助が前提とはいえ、無理があるという話である。
むしろ地域全体のネットワークを上手に構築していくという中で、小回りが利き、機動性があるハイエースの特性を生かせる路線に貼り付け、立席もとれて波動対応もできるポンチョクラス以上のバスと役割分担をしつつネットワークの一端を担えれば、逆にこれほど強い味方はない。
たとえば幹線バス路線に接続する生活エリアのフィーダー路線や、日中は大型バスを途中までとしてそこまでの便数を増やす一方で、末端部はハイエースでデマンド運行をするケースなど、上手な活用の仕方はいろいろ考えられる。
最後にひとつだけ、ハイエースやキャラバンなどを路線バスや乗合タクシー、デマンド交通などの乗合交通に使用する場合の利用者心理に触れておこう。
これらはあくまで普通車ベースの狭い車内空間で、乗客同士の距離も近い。乗り降りの際に出入口に近い人に動いてもらう必要もある。そうした空間で人と触れ合うのが心地よい人もいる一方で、知らない人同士がその距離で乗り合うことに抵抗感のある人も多い。
筆者が以前、岐阜県でハイエースの路線バスに乗ったとき、乗り合わせた知人同士らしい地元の女性2人は、同じ狭い車内に見知らぬ男性が乗っているだけで、下車するまでの約20分、普段のおしゃべりもない。
これが通路のあるバス車両の空間なら気にならないところだが、普通車の空間では気づまりなムードになってしまうのである。
こんなことからも、座席定員のみの小型に適しているのは、狭いエリアの短時間の交通手段としての位置づけなのだろうと考えられる。
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