岸田首相が9日未明、フランス、イタリア、イギリス、カナダ、アメリカの5か国歴訪のために出発した。この外遊の直前、岸田首相はウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で、同国への訪問を招請された。
G7では昨年4月、イギリスのジョンソン首相(当時)が首都キーウを電撃訪問したのを皮切りに、日本以外の6か国首脳はすでに戦争真っ只中のウクライナを訪れ、ゼレンスキー大統領との会談をこなしてきた。岸田首相は訪問招請に対し、「諸般の状況も踏まえ検討していきたい」と、十八番の検討で回答を留保している。
今回の外遊は15日までの6日間予定されているものの、西欧から北米を跨いで帰国の途に着くスケジュールを考えると、ウクライナへの“電撃”訪問は考えづらい。通常国会招集の23日まで時間があるからサプライズがないとは言えないが、そもそも日本の現職首相が、首都を含む全域が戦闘中の外国を訪れることは極めて異例だ。
日本が現地で飛ばせない戦闘機による護衛支援はアメリカの協力を得てなんとかできたにしても、首相専用機を運行する防衛省・自衛隊にとっても未知数のプロジェクトになるのは言うまでもない。ウクライナ側からの小生から10日もない中で、準備がとてもできるようには思えないが、今回のキーウ入りを見送っても、将来ウクライナ訪問を実現したいのであれば、PKOやイラク派遣に初めて挑んだ時に匹敵するだけの政治的な責任と重圧を抱え込むことになる。
では、「超冒険」とも言えるウクライナ電撃訪問を敢行して誰が政治的な実利を得るのだろうか。まず岸田首相本人であることは誰もが認めるところだ。旧統一教会問題、閣僚の相次ぐ辞任で下落した政権支持率は、昨年末からの増税ラッシュが追い討ちし、参院選後の「黄金の3年」が空文化して久しい。そうした中で、キーウを電撃訪問してゼレンスキー大統領との首脳会談に漕ぎつければ、海外でもそれなりに報じられ、もちろん国内的には「歴史的快挙」として政権浮揚の材料にはなる。
「政権浮揚」と書いたが、落ち込んだ岸田政権の勢いをウクライナ訪問を実現させた後に誰が再浮上させるのか解像度を上げてみよう。