UDトラックスは、昨年4月1日から国内販売事業部の組織体制を機能軸からエリア軸に移行。より地域に密着した販売体制を目指している。今回訪問した鹿島カスタマーセンターはまさにそれを象徴する地域密着型の販売会社だ。
鹿島といえば、東京から80km、茨城県東南部に位置しており、鹿島臨海工業地帯は産業と物流のメッカ。国際物流ターミナル整備事業も進められており、今後とも安定的な発展が見込まれるエリアだ。
地域特性を反映し整備工場への入庫は7~8割が大型車で、トレーラやフルトレーラなど連結車も多い。一昨年11月12日のリニューアルオープンから1年余り、今やフル稼働中のUDトラックス鹿島カスタマーセンターを訪ねた。
鹿島臨海工業地帯でリニューアルオープン
工業港の鹿島港を中心に鹿嶋市と神栖市(かみすし)に跨る鹿島臨海工業地帯は、製鉄所や石油化学工業、飼料団地、木工団地などが居並ぶ日本でもスケールの大きな工業地帯として知られている。
産業のあるところ物流ありで、幹線道路には大型トラックやセミトレーラ、フルトレーラ、ポールトレーラなどが引っ切りなしに行き交っている。ちなみに鹿島カスタマーセンター(以下鹿島CC)のすぐ脇には、貨物線の鹿島臨海鉄道鹿島臨港線が引かれており、一日に何本か長い貨物列車が通るという。
鹿島CCは、同じ茨城県神栖市ながら息栖(いきす)から居切(いぎり)へ移転してリニューアルオープンしたのだが、この狙いは何だったのだろうか? 釜屋和久カスタマーセンター長に聞いた。
「従来の鹿島CCは狭い旧道沿いにあったため、工場への出入りが不便でした。そこで鹿島地域の重要性を考慮し、道幅などを含め入庫しやすい利便性の高い場所を求めて移転することにしたのです。幸い地元自治体などの協力により良い立地条件が得られたことから、地域の特色である連結車両の取り回しに便利で、無理なく入出庫が可能な整備工場を目指しました」。
この「地域密着」は、今年4月1日に国内販売組織を改編したUDトラックスカスタマーサービスのキーワードだ。
4柱リフトをはじめ地域に即した大型車整備に特化
その鹿島CCの整備工場の特徴は、何といっても連結車にも余裕で対応する広い構内と使い勝手の良さだ。延べ床面積は1万1000㎡で、これは旧鹿島CCと比べて大幅な増床となる。総レーン・ベイ数は5レーン・7ベイで、中でもUDトラックスでは初採用となる4柱リフトは、フルトレーラでも連結状態のまま検査・整備ができる最新設備だ。
「工場は貫通式の出入り口を持つスルーベイにより、前進のみで車両が入出庫できるドライブスルー方式のレイアウトを採用しました。構内の車両移動を最小限にして時間のロスと事故のリスクを低減しています。
また、分割のフロアリフトや4柱リフトといった最新設備を活用し、工場のレーン数(ベイ数)は入庫車両の大きさや形によって可変できる、既存の枠に当てはまらない形になっています。特に4柱リフトは、トラクタとトレーラを同時に昇降でき、また2柱リフトとして別個に作動できますから車検および整備効率を向上し、より多くの車両に対応できます」。
入庫の際、車検では連結車両のトレーラも1台とカウントするため、UD車の入庫の割合は半分程度となるが、一般修理の場合、UD車の比率は9割以上となるそうだ。また、ボルボの入庫も散見される。では、一般的な入庫から出庫までの流れはどうなっているのだろうか?
「車検や定期点検は予約管理を行なっており、一般修理は突発的な故障こそ当日入庫対応となっていますが、エンジンやミッションの交換といった重整備は入庫日を決めて対応しています。地理的に通過車両の入庫は少なく、予約車両の対応が主になるので、整備待ちで駐車している車両は当日または翌日対応の予約されているものがほとんどですね。
地元の入庫車両が多いので、他拠点に比較してお客様自身による持ち込みの割合が高く、整備中にお待ちいただいているお客様は少ないと思います。仕上がり予定時間が確定次第連絡して車両をお返しする形となることが多いと思います。
入庫は原則予約制ですが、突然の路上故障は予約しようがないので、いきなりの入庫も仕方がありません。この場合、工場と作業員の手が空くまで修理開始をお待ちいただくことになりますが、待ち時間は平均すると30分から2時間程度になっています。
エンジン交換等の重整備では数日から1週間以上お預かりさせていただくことも多く、車検整備についても1日車検のような早さにはこだわらず、きちんと予防整備や修理を行なうことを重視しています」。
予防整備にテレマティクスを積極的に活用
今日のトラックの整備といえば、主流は予防整備である。そのために活用されるのがテレマティクスだ。この活用状況はどうだろう?
「はい、テレマティクスを活用して、お客様の車両状態を常に把握しています。万が一トラブルが発生した場合は、遠隔故障診断を行なってメカニックと事前に情報共有し、車両を迅速に通常状態に戻すためのサポートを行ないます。
ちなみにUDトラックスのコールセンターは、GPS機能を活用して、お客様の車両の位置情報を瞬時に把握。土地勘のない場所でのトラブルにもお客様に安心をお届けすることができます」。
最近増えている故障、減ってきている故障についてはどうだろう?
「最近はトラックの電子制御が高度化したことに伴い、電子制御関係のシステムチェックや修理に関する案件が増加しています。その反面、エアサスやディスクブレーキの普及により置き換わりとなるスプリング交換やブレーキライニングの交換が減少していますね」。
では、鹿島CCならではの入庫車両の特徴や整備内容はどうだろう?
「やはり特殊な用途を持った車両や構内車が多くなっています。先ほども申しましたが、突発的な修理による入庫車両は、他の高速道路インター沿いにある拠点に比べると比較的少なくなっています。
地域の産業に伴い、飼料や木材、鋼材等の運搬が多く、トレーラやフルトレーラといった連結車両が多いですね。さらに構内車や重トレーラ等も多いため、他地域のUD拠点に比べるとVOLVO車の台数が多くなっています。
この地域の車両を整備する際の特徴としては、海に近く塩害による錆や腐食が酷い車両が多いため、ボルト類が回らなかったり折れてしまったりするなど、ネジ穴を補修する作業が発生する事例が多く見られます。
自家整備をやっている企業さんもありますが、電子制御に関する法令の改正があったことにより、自家整備工場からこれらの技術対応に関する問い合わせなどが多くなっています。架装物については、基本的に架装を専業にしている整備工場へ依頼していますが、簡単な修理であればこちらで修理することもあります」。
働く人にもやさしい新しい整備工場を目指して
トラックドライバー不足が深刻化しているが、昨今はトラックの稼働を支える整備士もなり手が少なく、懸念されている。この点はどうだろう?
「確かに年々日本人の若者の人数が減ってきており、採用がむずかしくなっています。私どもでも外国人メカニックを採用していますが、近年増えている外国人メカニックの場合、コミュニケーションなどのフォローが必要だと考えています。また、職場環境の改善に関しては、設備や道具の更新、休憩時間の設定等に気をつけています」。
UDトラックスでは、販売会社のスタッフに対する指導・教育は、本社にある上尾トレーニングセンターに加え、各地域にもトレーニングセンターを置き、新製品、整備方法、装置に関するトレーニングを継続的に実施しているという。
また特筆されるのは、全世界のディーラーが参加するアフターサービスの技術競技会「UD現場チャレンジ」で、メカニック、フロント、部品スタッフが1つのチームとなり、互いに切磋琢磨して、ユーザーの車両の稼働をサポートするための知識と技術を高めあっていることだ。
現場にフォーカスしたこのイベントは、2014年から隔年で開催されるが、2020年はコロナ禍で中止となったものの、つい先日4年ぶりに「現場チャレンジ2022ワールドファイナル」が開催され話題を集めた。
その現場チャレンジでも、メカニック、フロントマン、部品スタッフがワンチームとなってカスタマーサービスに取り組むことが強調されているが、中でもフロントマンの仕事は、クルマではなく接客がメインの仕事。接客マニュアルのようなものはあるのだろうか?
「ただ、乗用車のように不特定多数のお客様に対する接客ではなく、特定少数のお客様に対する接客が基本ですので、一人一人のお客様との信頼関係などの人間関係が重要になると思っています。そのため他業種のような接客マニュアル的なものや定形的な接客トレーニングは導入していません。いっぽうで請求や納品に係る業務や書面の記載内容は均一化や統一化、明確化を進めています」。
最近流行りのメンテナンスリースについてはどうだろうか?
「メンテナンスリースの場合、契約内容に含まれていない修理はお客様の別途負担となる場合もあるので、丁寧な対応と説明が必要になります。
UDが主体となってメンテナンス契約を進める場合、定期交換部品については契約に含めるスタンスでお客様に提案していますが、お客様の都合もありケースバイケースとなりがちですね」。
出張サービスや24時間サービスの体制はどうか?
「関東地域全体の取り組みとして、休日と夜間は外注対応しており、日中についても入庫中の車両整備をきちんと行なうことが重要であると考え、出張サービスの一部を外注委託しています。
また、UDトラックスでは24時間サービスとしているのはロードサポートの対応のみで、前述したように休日と夜間は外注に対応を依頼しており、工場を開ける等の対応はしていません」。
整備士不足が喧伝される中で、アウトソーシングできるところはアウトソーシングし、スタッフの労働環境の改善を図る……、そういった姿勢が見える。
そのいっぽうでサービスの質や迅速性が損なわれることは避けなければならないので、UDトラックスではDX(デジタルトランスフォーメーション)も積極的に推し進めている。
これは、設計・生産・販売・アフター間で同じプラットフォームを活用して情報を共有するなど、より生産性の高いシステムを導入することにより、顧客へ提供するサービス品質の向上および迅速化を図ろうというものだ。
トラックなどの大型整備は、かつては3Kとも称されてきたが、いまその現場は大きく変わろうとしている。鹿島CCにはそんな新しい時代のカスタマーサービスの姿を垣間見せてくれた。
投稿 フルトレーラや構内車が居並ぶ異色の整備工場! 大型車のメッカにリニューアルオープンしたUDトラックス鹿島カスタマーセンターはなかなかスゴい は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。