2022年は、海外の自動車メーカーによるEVシフトが活発な年だった。そこで今回は、海外と日本の自動車メーカーのEVに対する戦略の違いについて解説する。
文/桃田健史、写真/ベストカーWeb編集部、平野 学
■2022年自動車業界の一番の驚きは? 海外メーカーのEVシフトが活発に
日本もこのまま一気にEVシフトが始まるのだろうか?
年末になって今年(2022年)の自動車市場動向を振り返ってみると、そんなふうに思う人が少なくないのではないだろうか。
まず、海外勢の動きが活発になっている。
特に驚いたのは、2月に電撃的に発表された韓国ヒョンデの日本再上陸だ。導入するモデルをEVとFCV(燃料電池車)に絞り、しかも販売はオンラインのみで行うというもの。グローバルで見ても、完全オンラインでの新車販売は珍しい。
また7月には中国のBYD(ビーワイディー)が、2023年から3車種を日本で順次発売すると発表した。その後、横浜赤レンガ倉庫のイベントスペースでBYDが冠スポンサーとなり1カ月間に渡り、車両展示と一般向けの公道試乗も行い、日本導入に向けた弾みをつけた。
欧州メーカーでは、ボルボがC40リチャージをサブスクリプションモデルとして導入した。アウディは、Q4 e-Tronの日本導入に向けて全国各地の販売店で左ハンドルの欧州プロトタイプを展示しながらユーザー向けに商品説明を行う、通称「ロードショー」を実施した。
メルセデスベンツは12月、横浜市内にEV専売店の「メルセデスEQ横浜」を開業し、BMWも「i」ブランドでのEVラインナップを拡充したり、フランス車でもプジョー「e-208」の発売が始まっているなど、欧州勢のEVシフトが目立つ状況だ。
そしてグローバルでのEV市場を実質的に先導しているテスラは、日本でも「モデル3」の販売が好調で、そこに「モデルY」の発売が加わりさらに販売が伸びてきている。
いっぽう、日系メーカーでは、トヨタ「bZ4X」とスバル「ソルテラ」が5月に発売。ただし、リコールのため一時販売を止めていたがリコールに適格に対応して新車販売やKINTOを通じた販売を再開している。
日産は「アリア」のデリバリーが春頃から本格的に始まっているほか、軽EV「サクラ」とその兄弟車である三菱「eKワゴンEV」が順調に発売を伸ばし、その結果、見事に日本カーオブザイヤーの栄冠を勝ち取ったことは記憶に新しい。
このように、少し前までは、日産「リーフ」、三菱「i-MiEV」、テスラ「モデルS」と「モデルX」が主体だった日本のEV市場が、ここへ来て一気に開花したような印象を受ける。
その背景には、いったい何があるのだろうか?
■政治的な動きと投資市場の融合が主なEV普及の要因だった?
2022年がまるで、EV普及元年のような市場動向になった直接的な原因は、ESG投資である。
ESG投資とは、「従来の財務情報だけではなく、エンバイロンメント(環境)、ソーシャル(社会性)、ガバナンス(企業統治)を重視した投資」を指す。つまり、企業が経営を考える際、目先の利益や売上だけではなく、ESGに係る中長期的な事業展開をすることが株価に直接影響するということだ。
最近、日本でもSDGs(国連の持続可能な達成目標)が話題となることが増えているが、ESG投資は当然SDGsとも直結する話である。
このESG投資が2010年代後半からグローバルで大嵐のように吹き荒れたことで、国や地域で一気にEVシフトすることで環境対策と経済効果の両輪を一気に回していこうという政治的な動きが強まったのだ。
代表的な事例が、欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)が推進している、欧州グリーンディール政策だ。
さらにくわしく見ると、同政策の中に「フィットフォー55」という法案があるのだが、これは欧州内で販売する乗用車と小型商用車のCO2削減目標を2021年比で2030年に55%減、そして2035年に同100%減と定めている。
この100%減とは事実上、EVとFCVのみが対象となり、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車は含まない。
ただし、直近ではカーボンニュートラル燃料のあり方なども議論されるようになっているため、欧州グリーンディール政策が段階的に修正される可能性はあり得ると思われる。
いずれにしても、欧州自動車メーカーとしては地元欧州内でのEVシフトへの対応が急務であり、そのなかでボルボやランドローバーのように完全EVブランドに転身するケースも出てきた。
そのため、今後も欧州メーカー各社の新型EVが日本に続々と上陸してくることになるだろう。
また、欧州グリーンディール政策の影響はアメリカにも及び、2021年8月にバイデン大統領が自動車の電動化に関する大統領令を発令した。内容としては、2035年までに乗用車がSUVなどライトトラックの50%以上を電動化するとしている。
ここにはプラグインハイブリッド車は含まれるという解釈であり、欧州に比べるとEVシフトの流れは若干遅い。
こうした欧米市場でのEVシフトに対して、欧米での販売台数が多いヒョンデがEVやFCVの開発や販売に積極的になるのは当然のことだと言える。そのうえでEVシフトがこれから加速すると予想される日本市場で、他社が未導入の完全オンライン販売という独自戦略で新規ユーザーの獲得を狙っているのだ。
また、中国では2000年代から国策として各種のEV普及政策が講じられてきた。さらに自動車産業前提で見ると、近年はこれまでの中国内での地産地消型から輸出強化型へのシフトが進んできている。そうしたなかで、中国でのEV先駆者と言えるBYDが日本市場への挑戦を開始することになる。
■どういう戦略をしていくべきか? 日本は社会体系の大転換が必要
以上見てきたように、日本ではこれから国内外メーカーを問わずさまざまなEVが販売されていくことになりそうなのだが、国としての受け入れ態勢は未だ不十分と言わざるを得ない。
そもそも、日本ではEV普及について、国の達成目標はあるものの欧州のようなEV義務化の方針ではない。日本自動車工業会では、水素燃料車なども含めて多様なエネルギー源の並存を考慮するべきという姿勢だ。
いっぽうで、2022年12月に与党がまとめた令和5年税制改正大綱の中で、2026年4月末までに車体課税の抜本的な見直の検討を明記し、そのなかで電動化について触れている。
CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリングなどの新サービス、電動化)に関連した産業競争力強化、また高齢化が進む社会への公共的な移動のあり方など、社会全体として変革を踏まえた税制のあり方を議論していくという考えだ。
日本ではこれから、自動車メーカー主導ではなく、自動車ユーザーも交えた社会変革の議論の中で、日本でのEVのあり様が見えてくるのだと思う。
【画像ギャラリー】魅力的なモデルが続々上陸!! 海外メーカーの最新EVを写真でCHECK!(44枚)画像ギャラリー
投稿 BYDやヒョンデが日本上陸!! 海外メーカーのEV戦略に国内メーカーはいかに立ち向かうか は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。