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 ウインターシーズンはスタッドレスの履き替えシーズンでもあります。そこで問題になるのが大型車の車輪脱落事故。近年減るどころか増えつつあり、憂慮される事態になっています。

 商用車のタイヤサービスマン・ハマダユキオさんに国交省が行なっている事故防止キャンペーンについて解説してもらいました。

文/ハマダユキオ 写真/ハマダユキオ・フルロード編集部 グラフ/国土交通省

国土交通省の大型車の車輪脱落事故防止キャンペーン

10年前は減少していた脱落事故だが、近年は再び増加している

 国土交通省は、大型車の車輪脱落事故が減少しないことから、2022年10月1日~2023年2月28日の期間「大型車の車輪脱落事故防止キャンペーン」を実施中です。

 2018年9月30日以前に登録された大型車の約38万台を対象にした緊急点検を実施して不具合のあるナットに関して必要書類を提出すれば新品のナットを無償交換してくれるというものです(左後輪のみ交換)。

 1年を通して冬のスタッドレス履き替え時期に脱輪が集中して発生してるため、今の時期の点検になるわけですが、点検内容はふだん弊社が実施してる作業内容とほとんど変わりなく、増えるのは必要書類への記入と社判を押すくらい。

 そこでどういう点検項目なのか、実際の書類から抜粋してみましたので、そのポイントをご説明します。

点検項目を確認してみましょう

■ジャッキアップ
確認項目:ジャッキ 『ジャッキアップポイントに確実にかけましたか?』
 これは脱着作業をする上で大前提な確認項目です。ナットを点検しろと指示されても、ジャッキが外れてケガをしたり車両を破損しては何にもなりません。正しいジャッキアップは安全作業の基本です。

■タイヤ 
確認項目:脱着 『ホイール、ボルトのネジ部およびハブのディスクホイール面を損傷させないように注意してタイヤ脱着しましたか?』
 ここでのポイントはボルトのネジ部損傷が大きいでしょうね。スリーブという工具を使えばスムーズかつ安全に作業ができます。

■ディスクホイール
確認項目:点検 『ディスクホイールの点検を行ない、亀裂や損傷がないか確認しましたか?』

 ホイールに亀裂、損傷があればそれが原因での脱輪の可能性もあります。ボルト穴付近でひびがあれば、たとえ規定トルクで締めても、ひびが進行して破損、分離、脱輪へと至るケースも考えられます。

確認項目:点検 『ホイール・ボルトの点検を行ない、亀裂や損傷がないか確認しましたか?』
 ボルトの点検はネジ部の損傷の有無やボルトの伸び等です。錆や汚れ等はワイヤーブラシ等で清掃してスムーズにネジが回転するようにします。

■ハブ
確認項目:点検 『ハブのディスクホイール取り付け面に著しい摩耗や損傷がないか点検し、清掃しましたか?』

 ハブの当たり面に損傷、摩耗があればホイールとの当たりも均一ではなくなるため、締め付け不十分の原因だったり、行き着くところはホイールの割れに至るケースもあります。

確認項目:給油 『ハブの嵌合部(インロー部)にグリースを薄く塗布しましたか?』
 これは、ハブとホイールの嵌合部分は隙間なくキッチリ嵌め込んでるので、錆の発生等でホイールがハブに固着するのを防止するためです。熱を持つ部分ですので、ここには滴点200℃の耐熱グリスを薄く塗布します。

■ホイールボルト/ホイールナット
確認項目:給油 『ホイール・ボルトとホイールナットのネジ部、ホイールナットとホイールナットワッシャーの隙間にエンジンオイルなどの潤滑剤を薄く塗布しましたか?』
 給油はボルトナットがスムーズに回転しなければ目標値の軸力確保は難しくなるため重要なポイントの一つです。ISOの場合、ボルト、ナットのネジ部のみオイルを塗布したとしてもナットのワッシャーの回転が悪く渋い場合は軸力確保の効力も落ちて締め付けは確実では無いものになってしまいます。

ISOのナット。ナットとワッシャーの矢印の部分にエンジンオイルを塗布。軽くスムーズに回る事が軸力確保には必要

車輪脱落事故防止の要・ホイールナットの確認項目

■ホイールナット
確認項目:点検 『ナットの座金が回転するか点検しましたか?』『円滑に回転しないナットはありましたか?』
 これは、ナット本体とワッシャーの隙間からオイルを塗布した後、ワッシャーを回してスムーズに異音なく回れば問題はありません。摩擦によるロスも少なく軸力も安定して発生するでしょう。

確認項目:取り付け 『ホイールナットをなるべく奥まで手で回し入れましたか?』
 ネジ部の状態が良ければスムーズに軽い力で入っていきます。キズがあったりネジ山が潰れたりしてると、手の力ではナットは回りません。ナットがスムーズに回って目標値の軸力確保となります。手で回らない場合はボルト、ナットに異常があると判断で交換することをお勧めします。

確認項目:トルク 『ホイールナットを規定のトルクで締め付けましたか?』
 軸力の測定は簡易的にできるものではないので、測定や管理が比較的容易なトルク値で締め付けます。規定トルクで締め付けをすれば如何なる場合も安定した軸力を得ることができるということではなく、ハブとホイール、リアであればホイールとホイールの当たり面が平滑でありボルト、ナットに損傷もなくスムーズに回転する前提での規定値なので、ボルト、ナットのネジ部の清掃、給油で使用過程でも限りなく状態を良くすることが肝要なのです。

 そこで脱輪事故の最も不可解な部分、軸力の確保の話になるわけですが、締め付けの際にナットとワッシャー、ボルト、ナットのネジ部がスムーズに回らず、締め付け力が摩擦抵抗で損失。摩擦力+締め付け力でのトルク値になり、見かけ上は規定値で締め付けできてるとしても、実際にはそれ以下というのが行き着くところナットの緩みなんだろうと考えます。

冬タイヤの履き替え時期に脱落事故は増加する。履き替えの際は点検を入念にする必要がある

 今回の国交省の「大型車の車輪脱落事故防止キャンペーン」は、せめてナットだけでも状態を確認、悪ければ交換することに重点が置かれていると思います。その際の作業もチェック項目を段階的に進めていけば、締め忘れや軸力不足も減少するのではないかという狙いもあると思います。

 タイヤの適切な使用管理は安全運転の基本です。皆さんもぜひ事故防止にご協力ください。

投稿 大型車の車輪脱落事故を防げ!! 国交省の事故防止キャンペーンをプロタイヤマンが読み解く自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。