2022年シーズンも各カテゴリーで熱戦が繰り広げられたモータースポーツ界。現在は2023年シーズンへ向けた束の間の“充電期間”に入っているわけですが、当企画ではオートスポーツwebの各カテゴリー担当編集が、2022年の戦いを『ベスト3』という切り口で振り返ります。
まずは全日本スーパーフォーミュラ選手権から。担当Nが、『印象に残ったレース・ベスト3』をセレクトします。
●第3戦鈴鹿:雨中のタイヤマネジメント
まず挙げたいのは、雨がらみの決勝となった4月の第3戦鈴鹿です。土曜日の予選はドライ。前戦富士に続き、野尻智紀選手(TEAM MUGEN)がこの時点で2022年シーズン2度目のポールポジションを獲得しました。
日曜日は朝から雨となり、30分間のウォームアップ走行が決勝セットアップのカギに。各チームは31周、(レインタイヤスタートであれば)タイヤ交換義務なしという午後の決勝に向け、赤旗も絡むこのセッションを最大限利用しようとしていました。
そこで大きな発見をしていたのが、9番手で予選を終えていた松下信治選手(B-Max Racing Team)陣営でした。田坂泰啓エンジニアは、4周の走行を終えて帰ってきたタイヤの表面を見て、フロントタイヤに対して優しいセットアップを施す必要性を感じた、と振り返っています。
迎えた決勝は、野尻選手がポールからホールショットを決め、ウォータースクリーンが立ち上る状況では圧倒的優位な先頭でレースを進めます。一方の松下選手はオープニングラップだけは攻めてポジションアップ、その後はひたすらタイヤを守る走りに徹していました。
後半になって雨量が少なくなるなか、好ペースを刻んだ松下選手が終盤一気に優位に立ち、残り4周のところで野尻選手をオーバーテイク、鮮やかなスーパーフォーミュラ初優勝を決めました。
前日のドライから一転、ウエットとなった一日を、巧みに『読み切った』B-Max Racing Teamの勝利は、痛快と言っていいものでした。待望の勝利を得た松下選手が、心から安堵していたような柔らかい表情を見せていたのも印象的でしたね。
その一方で、「ドライではまだまだ」と兜の緒を締めていたことも強く心に残っています。実際、その後のシーズンでは2勝目には手が届きませんでしたが、2023年は2台体制を採ることが発表されており、ドライでのポテンシャルアップにも期待がかかります。
●第6戦富士:まさに“大荒れ”
続いては、さまざまな出来事が凝縮していた富士スピードウェイでの第6戦です。レース後のパドックが一番“波乱万丈”だったのはこのレースかもしれません。
スタート直後のTGR(1)コーナーでは、複数の接触の影響を受ける形で平川亮選手(carenex TEAM IMPUL)がリタイア。後にタイトル争いを振り返ったときに本人もターニングポイントとして挙げる、勝負の分かれ目ともなりました。
そしてこの接触では、原因の発端となった三宅淳詞選手(TEAM GOH)ではなく、三宅選手から接触を受ける形になった大湯都史樹選手(TCS NAKAJIMA RACING)にペナルティが与えられてしまうという事態が発生してしまいます。車載カメラの映像をエビデンスとすることにはさまざまな障壁もあるようですが、その後シリーズプロモーターのJRPからも声明が出ているとおり、今後の改善に期待したい出来事でもありました。
アクシデントは続き、サッシャ・フェネストラズ選手(KONDO RACING)と山本尚貴選手(TCS NAKAJIMA RACING)がポジションを争うなかで接触、フェネストラズ選手が戦慄の大クラッシュを喫することとなってしまいます。このためフェネストラズ選手は次のラウンドから車両を交換しますが、そこでのフィーリングの違いも、タイトル争いに影響することになってしまったようです。
さらに今度は、トップを守ったままピット作業を終えた関口雄飛選手(carenex TEAM IMPUL)に悲劇が。ダンロップコーナーを立ち上がったところで左リヤタイヤが脱落し、首位の座を失ってしまいました。
そしてここで導入されたセーフティカーが、レースの勝敗を左右することに。坪井翔選手が(P.MU/CERUMO・INGING)抜群のタイミングでピットイン、野尻選手を押さえ込んでトップに立ったかと思われましたが、そのあとにピット作業を行った笹原右京選手(TEAM MUGEN)がピット出口でトップに立つ展開に。坪井選手としては、セーフティカーに追いつくまでにもう少しペースを上げていれば……という、非常に悔しいレースとなりました。
レース後のミックスゾーンとパドックは、まさに悲喜交々。悲願の初優勝に喜びを爆発させる笹原選手、無念ながらも意外やスッキリした表情の関口選手、ペナルティに納得のいかない様子の大湯選手……などなど、あまりにもいろいろな感情が凝縮されていましたね(取材も大変でした……)。ここまでさまざまなアクシデントが重なるレースは、近年ではなかったように思います。
ちなみにピット作業直後のタイヤ脱落により勝利を失ったインパルでしたが、噂によると逆転タイトルを狙った最終ラウンド鈴鹿では、タイヤ交換関連の装備の面で相当に“攻めて”いたとの情報も。「それでも攻める」姿勢は、まさにこのチームらしさと言えそうです。
●第8戦もてぎ:間違えたタイミング
残る1戦は文句なしに、そのインパルの2台により名バトルが繰り広げられた、モビリティリゾートもてぎでの第8戦でしょう。
決勝で早めのピットを選択した関口選手と、ピットを遅らせた平川選手の見えない戦い、いわゆる“オモテとウラ”のトップ同士の争いは、終盤に向けてひとつの“点”に向かっていくことに。両者がコース上の別の場所で走っているときから、「これは最後、すごいことになるな」という予感がありました。
果たしてピット作業後、フレッシュタイヤの平川選手は次々とライバルをパスし、トップを逃げる関口選手に追いつき、ゆさぶりをかけます。サインガードでは星野一義監督も「やらせろ!」と叫んでいたといいます。
最後は90度コーナーで接触寸前、平川選手はアウト側の縁石の上で大きく跳ねるところまで攻め立てますが、オーバーテイクには至らず。関口選手が3年ぶりの勝利を飾りました。
パルクフェルメに先に戻ってきた平川選手は、ステアリングを投げ捨てるように外し、関口選手とのワン・ツー記念のツーショットを撮ろうとしていたフォトグラファーのリクエストも振り切って表彰台の裏へと一目散に向かい、ひとり佇んでいたのが印象的でした。
後に取材したところでは、バトルのなかでOTS(オーバーテイクシステム)を押すタイミングを誤ってしまった自分に対して、エキサイトしていたとのこと。平川選手としては、ランキングトップをゆく野尻選手を追い詰める絶好の機会でもあったわけで、フィニッシュ直後の精神的な波はかなり大きかったようでした。
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2022年のスーパーフォーミュラは、手に汗握るレースが多かったように感じます。既報のとおり、2023年はハード面が変更されます。2022年までの現行パッケージで最強を誇った王者・野尻選手は「僕の立場からしたら、変わらなくていいのですが(笑)」と言いますが、新たな勢力図が見られる可能性も高そうです。
しかも、空力パッケージとタイヤが変更になるにも関わらず、開幕前のテストは1回のみ。「かなり“ガラガラポン”なところはあり『スポーツとしてどうなの?』という気もしますが、ここまで2連覇した真価が問われるところだと思いますので、手を抜かずに思いっきりやるしかないですね」(野尻選手)。
変化が大きく、総合的な力量が問われそうな2023年も、見応えのあるシーズンとなることを期待したいと思います!