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 キャンピングカー架装のベース車として、ステランティスジャパンが発売した、フィアット「デュカト」がいま話題です。国産の小型商用車にはないスタイルとサイズが新鮮ですが、メイン市場の欧州では、多数の競合車がひしめく激戦区のメジャープレーヤーです。ここでは、デュカトの仲間とそのライバルを紹介しましょう。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/ステランティス、メルセデスベンツ、ルノー、日産、ルノートラックス、フォルクスワーゲン、MAN、フォード、SAICマクサス、ヒョンデ、GAZ

ハイエースより大きい小型商用車

フィアット・デュカト。写真はロングホイールベース・ハイルーフのL3H2で180psエンジン搭載車

 フィアット・デュカトは、セミキャブ・全幅2.05m・前輪駆動のワンボックスバンという、国産商用車にはないスタイルとサイズをもっています。ステランティスジャバンでは、その低床・大容積の架装スペースを、バン・コンバージョン型キャンピングカー向けに提案しているわけですが、まずはデュカトが属するクラスから解説しましょう。

 デュカトは、欧州LCV(小型商用車)では車両総重量(GVW)3.0~5.0トン級という、大きいほうのセグメントに属しています。デュカトは、このセグメントで約20%というシェアを占めているとされ、トップクラスの支持を集めるブランドの一つとなっています。

 デュカトの下が、GVW2.0~3.0トン級セグメントで、フィアットでは「スクード」というモデルがカバーしています。日本のLCVでいえば、「ハイエース」に最も近いのがこのセグメントで、トヨタ・ヨーロッパでも「プロエース」という欧州市場専用モデル(注:ステランティスから供給されるOEM車)を投入しています。

 さらにその下がGVW2.0~2.5トン級セグメントで、フィアットでは「ドブロ」というモデルがカバーしています。日本で知られているクルマでは、ルノーの「カングー」(の商用モデル)などが相当します。

 逆にデュカトの上は、GVW3.5~7.5トン級セグメントとなり、LCVとしては伊・イヴェコの「デイリー」の独壇場です。また、日本の三菱ふそう「キャンター」やいすゞ「Nシリーズ(エルフ)」もこのクラスに該当し、小型ながら頑丈なキャブオーバー車として、逆に欧州にはないユニークなクルマとなっています。

豊富なバリエーション

デュカトのキャブ付シャシー。キャブバックから後はラダーフレームシャシーだが、手前から2台めは、シャシーフレームに架装用サブフレームをマウントした状態である

 デュカトをはじめとするGVW3.0~5.0トン級LCVには、たいてい三つのボディ形態が設定されています。一つはパネルバン(サイドガラス仕様や貨客兼用モデルもある)、二つめはキャブ付シャシー(トラック型モデル)、三つめがバスです。

 それぞれ積載量、ホイールベース長、ボディ全長、ルーフ高、エンジン、駆動方式など豊富なバリエーションから、用途にマッチした組み合わせが選べるようになっており、最近ではEVモデルも設定されるようになってきました。

 また、キャブ付シャシーはボディ架装を前提とした形態なので、ダンプや冷凍車といった特装車から、キャブ・コンバージョン型キャンピングカー、バス車体メーカーによる本格的なバス架装車まで、さまざまな応用が可能になっています。

 いまのところ日本で発売されるデュカトは、パネルバン3機種(L2H2/L3H2/L3H3)です。このL●H●とは、ミディアム(L2)とロング(L3)のホイールベース長と、ハイルーフ(H2)とスーパーハイルーフ(H3)のルーフ高さを示す符号を組み合わせたものです。また日本仕様のパワートレインは、2.2リッター180psディーゼル・9速ATのみの設定です。

デュカトのドイツ市場用カタログに収録されたパネルバン・モデルのバリエーション

デュカトとその仲間たち

プジョー・ボクサー。デュカトと同じプラットフォームを用いた同級LCVだが、全く同一のクルマでもない

 フィアットは現在、グループPSA(プショー、シトロエンなど)とともにステランティス・グループを形成していますが、その以前からPSAとは、LCVで協業してきた関係(1970年代から!)があり、デュカトも1981年の誕生当時から、PSAの同級車とプラットフォームを共有してきた歴史がありました。

 もちろん現行モデルも同様で、プジョーのGVW3.0~5.0トン級LCV「ボクサー」と、シトロエンの同じく「ジャンパー」は、デュカトと基本設計を共有するLCVとなっており、ホイールベース長やボディ長、ルーフ高のバリエーションは同じです。そして3モデルとも、イタリアのヴァル・ディ・サングロ工場で生産されています。

 もっとも、デュカトとボクサー/ジャンパーは、完全に同じクルマかというとそうでもありません。フロント周りのデザインが違うのはOEMでもよくありますが、デュカトおよびボクサー/ジャンパーは、エンジンが異なっているのです。

 デュカトとボクサー/ジャンパーは、ともに2.2リッターのEuro-6ステージE排ガス規制適合ディーゼルエンジンを搭載していますが、デュカトは内径83.8mm×行程99mmの直4で排気量2184ccの「マルチジェット3」エンジンを、ボクサー/ジャンパーは内径85mm×行程96mmの直4で排気量2179ccの「ブルーHDi」エンジンを、それぞれ搭載しており、パワーレンジこそ120ps・140ps・160ps(フィアット)または165ps(PSA)と実質的に同等ですが、最大トルクとピークトルクの発生回転数などは違っています。

 さらに言えば、デュカトとボクサー/ジャンパーに設定されるEVモデルも、高電圧バッテリーの構成やモーターの出力、そして航続性能がそれぞれで違っているのです。

 エンジンの違いは、ステランティスという企業連合が成立して、まだ日が浅いことも理由だと思われますが、もしかしたらいずれは伊・仏メーカーでパワートレインの大統合…という事態もありえるでしょう。

デュカトは親類も多い

オペル・モヴァノ。こちらはプジョー・ボクサーをベースとしている

 フィアットの協業相手だったPSAは、ステランティスの成立前の2017年にドイツのオペル、英国のボグソールを傘下に収めています。そのため、この2社がラインナップしていたGVW3.5~5.0トン級LCV「モヴァノ」も、2022年モデルからボクサー/ジャンパーのブランド違い車となりました。つまりデュカトからみれば親戚のようなクルマですが、欧州市場だけで4モデルもの「ほぼ同型車」と競合しているともいえます。

 ちなみに、フィアットが2009年に資本参加した米・クライスラーでも、「ラム」ブランドを通じて、メキシコ工場製デュカトとでもいうべきクラス2b小型商用車「プロマスター」が2013年から発売されているので、「ほぼ同型車」はデュカト含めて6モデルが存在します。

欧州市場向けではないが、デュカトは北米市場でもクライスラーの商用車ブランド・ラムから「プロマスター」として供給されている。エンジンはクライスラー製3.6リッターV6ガソリン

ライバルはもっと多い

メルセデス・ベンツ・スプリンター。駆動方式はFWD、RWD、AWDのフル展開。さらにEVも設定しており、写真はその「eスプリンター」である

 GVW3.0~5.0トン級LCVは、欧州の自動車メーカーが多数参入している市場でもあります。

 このクラスで大きなシェアを占めているもう一つのクルマが、メルセデス・ベンツの「スプリンター」です。スプリンターは、前輪駆動(FWD)に加えて後輪駆動(RWD)や四輪駆動(AWD)を展開し、GVWクラスやホイールベース・ボディの長さも豊富に設定するなど、車型バリエーションが特に多いことも特徴です。

 ルノー日産三菱グループも大手の一角で、ルノーの「マスター」はメジャーブランドの一つです。マスターは、日産からも「インタースター」(一時期NV400と称していたモデル)として発売され、日本へも並行輸入されました。実は、前述のオペル/ボグソール・モヴァノも、PSA傘下になる以前のGM時代はルノーと協業していたので、マスターの共通設計車をボグソールで生産していました。

 また、かつてはルノーの大型商用車部門で、現在はボルボトラック・グループのルノートラックス(ルノーとは資本関係がない)も、「マスター」を取り扱っています。ルノー・マスターと同一車ながら、ルノートラックス独自のオーナメントを付けたり、EVモデルを「Z.E.」と呼ぶなど、ルノー版とはわずかな違いがあったりします。

ルノー・マスター。駆動方式はFWDとRWDの2種

競合する強豪はまだある

欧州フォードのトランジット。駆動方式はRWD、FWD、AWDのフル展開

 欧州LCV(GVW1.5トン級などコンパクト系も含む)市場全体で総合トップといわれているのが欧州フォードで、GVW3.0~5.0トン級LCVは「トランジット」というクルマを生産・販売しています。ちなみにGVW2.0~2.5トン級LCVも、それとはまったく違うクルマながら「トランジットコネクト」という名称を与えており、トランジット・ブランドの強さもうかがわせます。

 フォルクスワーゲンのGVW3.0~5.0トン級LCVが「クラフター」です。現行モデルは、2016年にデビューした新開発モデルで、ポーランド工場を生産拠点としています。現行モデルはVWオリジナル車ですが、つい6年前までメルセデス・ベンツのスプリンターをベースにVW製エンジンを搭載するというクルマで、生産もメルセデス・ベンツのカッセル工場で行なわれていました。

 VWグループ傘下かつTRATONグループのMANは、大型トラック中心の商用車メーカーですが、2016年からGVW3.0~5.0トン級LCV「TGE」を発売しています。なんとなく察しがつくと思いますが、TGEは、クラフターのMANブランド車です。MANは、VWと資本関係がなかった頃でも、小型商用車でVWと提携していた時期がありました。

中国メーカーも参入

上海汽車の英国子会社・SAICマクサスが2020年に発表したLCV、マクサス・デリバー9。駆動方式はRWDのみ

 このように、デュカトをはじめ欧州車ブランドだけでもかなりのモデルがあるGVW3.0~5.0トン級LCV市場ですが、さらに欧州域外からも参入を挑むメーカーがあります。

 新規参入組の筆頭は、やはり中国メーカーです。小型車大手の一つである上海汽車は、09年に買収した英国の商用車メーカー・LDV(現・SAICマクサス)で、小型商用車の現地生産を進めてきましたが、2020年に「マクサス」ブランドを立ち上げ、欧州市場向けの新型LCV「デリバー9」を発表しました。最大の武器は価格(欧州メーカー車より2割ほど安い)で、EVも展開しています。

 いっぽう、韓国のヒョンデは、2014年に欧州向け新型LCV「H350」を開発、トルコの自動車メーカーに生産を委託して、欧州市場へ輸出しました。しかし、現地メーカーが圧倒的に強いことから、19年に欧州向けLCVから撤退し、乗用車事業への集中を進めました。

 ロシアのウクライナ侵攻によって、EUからロシア企業が事実上追放されましたが、その一つが大手自動車メーカー・GAZグループでした。以前から欧州市場での本格進出を企図してきたGAZは、2020年に開発したばかりの新型LCV「ガゼルNN」を、オーストリアのシュタイア・オートモティブで生産する計画を進めていました。しかしEUの対露制裁に呼応して、シュタイアではその計画を打ち切ることに。もはや現下の情勢では、復活もありえないでしょう。

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