ニッサンが新型Z GT500を投入。ホンダはベース車両をNSXの最終型タイプSに変更。それを迎え撃つ、2021年王者のトヨタGRスープラ。そして、8戦中5戦で3メーカーが表彰台を分け合うという、拮抗のシーズンとなった2022年。
12月22日(木)発売のauto sport臨時増刊『2022-2023 スーパーGT公式ガイドブック総集編』では、GT500シーズンレビューとして、王者の裏側にあったストーリー、王者になれなかった要因にも迫る。ここでは、ニッサン陣営のシーズン総括を一部抜粋でお届けする。
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ニッサン陣営は2022年シーズンを迎えるにあたり、新型Z GT500の導入とともにチームのサポート体制を強化した。これまでも松村基宏総監督は4チームを俯瞰して見る立場にあったが、昨季までは赤いチームウエアを着用し、赤いトランスポーターを居場所としていた。ニスモワークス、つまりはエースカーである23号車の色が濃く映っていたわけだ。それは外部から見た印象だけでなく、サテライトチームも感じていたという。今季の松村総監督は黒や白のウエアを身にまとい、シルバーのトランスポーターを拠点とすることで、“遠慮”という壁を取り払った。
「いまの拮抗するGT500は、総力戦でいかないと獲れないですからね」と松村総監督。
現場でのチーム間の垣根を越えた情報共有が緊密になり、4チームの総合力が底上げされた。そして、それは結果として現れた。4台すべてが表彰台に立ち、Zは全戦で表彰台を獲得したのだ。CRAFTSPORTS MOTUL Zが2勝、カルソニック IMPUL Zが1勝と、年間3勝を挙げることもできた。
もちろん、この結果は車両の進化によるところも大きい。前型のGT-Rからドラッグを大幅に減らしつつ、強大なダウンフォースも確保。トップスピードが伸び、それでいて高速コーナーでも速い。だから、昨季は苦手としていた富士を克服し、得意としていた鈴鹿はそのままに、どのサーキットでも強さを発揮した。エンジンにおいて、かつてはライバルに対して「劣る」と言われていた出力=燃効率、つまり燃費にも自信を覗かせる。燃費がいいということは、戦略の幅が広がるということでもある。
最終戦には、CRAFTSPORTS MOTUL Zがランキングトップで、カルソニック IMPUL Zが2位でタイトル決戦に挑んだ。その結末は周知のとおり、サテライトチームであるカルソニック IMPUL Zが王座に就いた。松村総監督は言う。
「やってきたことは間違っていなかった」
カルソニック IMPUL Zがチャンピオンとなったターニングポイントをチーム関係者に訊ねると、「第5戦鈴鹿」だと口をそろえた。予選で最後尾になりながら、ピット戦略も奏功して追い上げ、“奇跡のテール・トゥ・ウイン”を成し遂げた、あの一戦だ。その理由を大駅俊臣エンジニアが説明する。
「最初から、チャンピオンを獲るなら表彰台を続けないとダメだというのがずっと頭のなかにあって。(第4戦)富士で2位になって、(第5戦)鈴鹿で優勝できたのが大きい」
高橋紳一郎工場長は、「あれで流れをつかんだのと、ポイントが一気に上がって狙えるところにきたことで、ドライバーもスタッフも士気が上がったよね」と言う。
今季のカルソニック IMPUL Zは、その1勝を含む4度の表彰台に登壇。第3戦鈴鹿はトラブルで早々のリタイアとなってしまったが、それを除く7戦で入賞した。この安定した強さが、唯一2勝を挙げたCRAFTSPORTS MOTUL Zを4.5ポイント上回った。
第5戦鈴鹿での優勝インタビューでは、星野一義監督が目を濡らしながらカルソニックに感謝の気持ちを発した。
「“あまりいいニュースがないなかで”ね、今回の優勝をカルソニックにあげたいんです。スタッフもドライバーも、本当に頑張ってくれて、僕はうれし泣きしました。ファンの方も応援してくれて、ありがとう」
カルソニックは、星野監督が現役で走っていた1982年から、ずっとスポンサーを続けている。TEAM IMPULが、まだホシノレーシングとして参戦していた全日本GT選手権(JGTC)で、初年度の1994年、翌1995年を連覇(ドライバーはいずれも影山正彦)したときは、やはりカルソニックのコーポレートカラーであるブルーのGT-R(R32型)だった。カルソニックブルーは、TEAM IMPULのイメージカラーともなり、同じ時を歩んできたのだ。そして、27年ぶりのチャンピオンに輝いた。
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『2022-2023 スーパーGT公式ガイドブック総集編』では、このほかにもGT500シーズンレビューとして、ホンダ編『遅すぎた、反撃』、トヨタ編『独走劇からの失速』や、タイヤメーカーの戦いに注目した『GT500タイヤウォーズの結末』なども収録されている。
※この記事は『2022-2023スーパーGT公式ガイドブック総集編(auto sport臨時増刊)』(2022年12月22日発売)内の企画からの一部抜粋・転載です。