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中国製BEVは日本市場で勝算はあるのか? BYDの新モデル試乗からわかったその本気度

  2023年1月導入予定のBYD製BEVの『ATTO3(アットスリー)』。先日、440万円という日本での価格が発表されたが、短時間とはいえ試乗する機会を設定するなどその本気度は伝わってくる。しかし、実際まだまだ参入障壁度の高そうな中国製BEVは本当に成功するのだろうか。

文/高山正寛 写真/平野 学

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■久々にインパクトのある発表会

2022年7月、世界第2位の電気自動車メーカーである中国のBYD(比亜迪汽車)の日本法人である「BYD Auto Japan」は、日本導入予定車両の発表会を行った

 とにかく久々に派手な発表会を見た。これまでもニュース性、インパクトの点でも話題となり「黒船襲来」とか騒がれた輸入車ビジネスは数多くあったが、成功を収めたか、と問われると非常に厳しい結果も歴史としては残っている。

 そもそも「黒船〜」と言った段階で日本人がある程度のアレルギーを持ってしまう部分も否定できないし、その一方で携帯電話に代表されるように、良い物であればこだわりは無いのが現代のマーケティングだ。

 特に期待の「Z世代」などは最初からグローバル化の洗礼を受けているので、過去の日本における輸入車ビジネスの失敗はそれほどあてはまらないだろう。

 発表会自体は非常に綿密なシナリオとストーリーで構成されていた。自動車業界にいればBYDの名前くらいは当然知っている(はず)だが、実際、日本でどういうビジネスを展開するのかといった疑問に対してもかなり事前に調査を行っている印象を受けた。

■マーケティングに関しても抜かりなし

 日本に導入予定のモデルは3車種。先鋒は2023年1月にミドルサイズSUVの『ATTO 3』、2023年中頃を予定しているコンパクトハッチバック『DOLPHIN(ドルフィン)』、そして2023年下期に予定されるスポーティセダン『SEAL(シール)』だ。

 3車種とも中国で販売されているモデルとはバッテリー容量などが微妙に異なる部分もあるが、まずは日本でも売れ線であるSUVから導入する点、また日本ではどちらかと言えば大容量バッテリーを搭載する大型SUV&セダンが輸入車のカテゴリーでは多いのに対し、コンパクトセグメント(とはいえ全幅は1770mmもある)を持ってくるなど中々よく考えていると感じた。

 日本法人(正式社名はBYD Auto Japan株式会社)はBYDの100%子会社になるが、代表取締役社長の東福寺厚樹氏は三菱自動車やフォルクスワーゲン販売会社のトップを歴任してきた。

 言い換えれば国産車と日本における輸入車ビジネスを知り尽くした人材だろう。同社の会長である劉 学亮(LIU XUELIANG)氏もその部分を期待しているのではないだろうか。

■実際乗ってどうだったか

試乗したのは日本導入予定のBYD ATTO 3(アットスリー)。豪州仕様の右ハンドル車が用意された

 試乗用に用意された『ATTO 3』は豪州仕様の右ハンドル車。正直に言えば短時間の試乗なのでアレコレ言うレベルでもないのだが、全長4455×全幅1875×全高1615mmのボディサイズは数値よりは取り回しがしやすく、都内の道でも使いづらさは感じなかった。

 駆動方式はFFのみ、搭載するバッテリーによる最高出力は150kW、最大トルクは310Nmだから走りの点では不満は無い。

 何よりも気になる航続距離もスペックとしてはWLTC値(但し自社測定)で485km、EPA換算の推定値で約388kmとのこと。バッテリー容量は58.56kWhなので個人差はあってもEPA数値はほぼキープできるのではないだろうか。

 走りに関してはBEVらしく、出だしは滑らかでアクセルを踏み込めば爽快な加速を得ることができる。評論云々言うレベルではなく当たり前の感覚だ。3種類のドライブモードも搭載する。

 一方でBEVはモーター駆動ゆえにコンピュータ側のセッティングが比較的容易だ。ゆえに渋滞などが多い日本の道路事情に合わせた細かな制御をどこまで行ってくるかで導入後の商品評価も変わってくるだろう。

 室内も必要十分で日本人が好む快適装備類も満載されている。

 カーナビ関連の仕事が多い筆者から見ても電動モーターで縦横に回転する12.8インチディスプレイは当初はギミック的に思うかもしれないが、縦型によるカーナビ地図の視認性向上(その先の道路状況が掴みやすい)には間違いなくプラスになるし、その回転機構もステアリングスイッチで操作できるなどUI面でも他社がやりそうでやらなかった部分にコストをかけるなど提案自体は面白い。

 ちなみに導入前ということでAppleのCarPlayとGoogleのAndroid Autoには対応していたが、ワイヤレス接続には未対応。そして純正カーナビは導入時までには決まるようだ。

■本当にディーラーを配置するのか?

BYD Auto Japanは販売方法としてディーラー網の構築を計画しているという。短期間でのブランド認知にはリアル店舗は効果的だ。日本のビジネスを知り尽くした東福寺社長(写真)あってこその戦略だろう

 発表会当日で一番驚いたのが販売方法だ。てっきりボルボやテスラ、またヒョンデのようにネットを活用した販売を行うと思っていたのに対し、BYDジャパンはディーラー網を構築して販売するという。その数、全国で100箇所を目標としているという。

 「言うは易く行うは難し」ではないが、最初からハードルを上げてきたな、というのが素直な感想だ。

 前述したZ世代であれば、ネット販売へのハードルも低いだろうが、一定期間の間にブランド認知も含めるためにはやはりリアル店舗は重要だ。日本でのビジネスを熟知している東福寺氏が社長に着任している点からも自信はあるのだろう。

 ただBYDジャパンの直営ディーラーは持たず、日本各地でこれまでビジネスを展開してきた地場の販売会社と提携することを基本としているので、都道府県に最低でもひとつ、言い換えれば50拠点は思ったより早く整備できると思う。

 その点では昨今話題のヒョンデ アイオニック5とは大きくやり方が異なる。成約までのスピード感はネット販売を主とするヒョンデの方が有利だろう。しかし実際のメンテナンスなどは協力整備工場との連携になることからもアフターサービスに差が発生することもあり得る。

 一方BYDの場合はそのディーラー網の構築自体に時間はかかるものの、サービスの平準化は行いやすい。そしてディーラー網には重要な充電インフラである急速充電器は設置するという。要は「遠回りしても最後は顧客のためになる」というBYDの戦略がどこまで評価されるには注目したい。

 そもそもバッテリーメーカーとして創業し、BEVにも独自の「ブレードバッテリー」を開発し搭載するなど、エネルギー領域では世界でもトップクラスのIT企業である。単純に日本での認知度が低いだけでBEVも20年弱の歴史がある。

 それでも筆者のようなオジサンにはまだまだアレルギーがあるのも本音。BYDにはその辺を何とかその部分を取り払って貰えるとグッと身近になることは間違いない。

 ちなみに『ATTO 3』の価格はまだ未定だが、試乗した豪州仕様の上位グレードが約450万円だ。ライバルになりそうなアイオニック5が479万円からなので、400万円前半でプライスタグを付けることができればブレイクも夢では無い。

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 しかし、今回の原稿を書いていて感じたのはところで日本勢はその後どうした? っていう気持ちだ。

 筆者としては何でもBEVというつもりはない。モビリティのエネルギーは適材適所、多様性が求められる。それでも国産のBEVの種類の少なさやインフラ整備などはもう少し頑張って欲しいと思うのは贅沢なのだろうか。

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