世界的な自動車用コンポーネントメーカー、ZFフリードリヒスハーフェン(ZF)は11月21日、革新的な電気駆動システム(E-ドライブ)技術を発表した。
このE-ドライブ技術は、乗用車用および小型商用車用の新世代コンポーネントとして、2025年以降の供給が計画されているものだが、トラック・バスなどにも波及しうる技術で興味深いものがある。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/ZF、「フルロード」編集部
軽量・コンパクトで高効率・高出力そして短時間で充電
ZFは今年から、次世代の電気自動車(EV)や燃料電池車(FCEV)などに対応する高電圧(具体的には800V)電動車用システムの量産を開始するが、今回発表の「新世代E-ドライブ技術」は、さらに優れた出力密度とエネルギー効率、省レアアースを実現することで、より軽量・コンパクトで高効率・高出力なシステムを実現する。
その新世代E-ドライブ技術とは、インバータ、モーター、トランスミッション、燃料電池車(FCEV)用高電圧コンバータ、ソフトウェアで構成された電気駆動システムだ。1台のEV・FCEVに必要なE-ドライブのシステム要素がすべて揃えられているが、モジュラー・コンセプトによって、コンポーネント単体での供給も可能としている。
インバータにディスクリート構造を採用!
インバータは、電動車の出力制御をつかさどるパワーエレクトロニクスだ。その中身は、パワー半導体(スイッチング素子)を集積したものだが、新世代E-ドライブのインバータでは「ディスクリート構造」という新技術を採用しているのが、最大の特徴である。
通常のインバータは、ひとつの基板に複数のパワー半導体チップを組み込んだパワーモジュールが用いられる。いっぽうディスクリート構造とは、ひとつのパワー半導体チップ自身が基板を備え、チップ単位のモジュールを集積したものである。
ディスクリート構造は、標準化したパワー半導体モジュールで構成されるため、複雑なパワーモジュール式よりも量産性に優れるが、さらにパワー半導体モジュールを変更すれば、(顧客である自動車メーカーの)異なる性能要件に柔軟かつ迅速に対応できるというメリットも併せ持っている。しかも、ZFのディスクリート構造は、部品点数の削減も実現させたという。
モーター冷却方式の一新でレアアース削減!
モーター(e-モーター)には、新しい冷却コンセプトを導入する。モーターの運転中、最も熱が発生するのは銅線だが、新冷却コンセプトでは、その銅線の周囲をオイルで直接冷却する方式を採用する。
この方式によって高い冷却効率が得られるため、モーター出力の大幅アップが可能となり、連続出力を、ピーク出力の最大85%という高いレベルに設定することができる。そのいっぽうで、モーターの耐熱性確保で不可欠だった重希土類の大幅な削減も実現し、レアアースへの依存が少ないモーターの製造を可能としたのである。
また、モーターの固定子には、新開発の編み込み式巻線技術を採用する。ヘアピン型巻線をさらに進化させた巻線技術で、コンポーネント全体で車両の占有スペースを10%削減し、巻線のヘッド部分に限ると従来比で約50%も小さくなるという。さらに使われる原材料も約10%減少している。
リダクションギヤとデフギヤを統合!
モーターは高速で回転するため、電動車ではトランスミッション(またはリダクションギヤ=減速機)を使って減速し、トルクに変換するケースが多い。これまでは減速機能とデファレンシャルギヤ(差動装置、デフ)をそれぞれ別のギヤセットで機能させていたが、新世代E-ドライブ技術では「同軸減速ギヤボックス」に統合する。
同軸減速ギヤボックスは、一つのプラネタリーギヤ(遊星歯車)が減速機能と差動機能を備えるもので、伝達効率、静粛性能、制振性能を損なうことなく、重量軽減と容積縮小を達成する。
高電圧コンバータはなんと変換効率99.6%!
高電圧コンバータ(DC-DCコンバータ)は、燃料電池という発電装置を備えたFCEVにおいては、重要な電気駆動システムの一つで、燃料電池の低い出力電圧と、高負荷時での大きな電圧降下を補償する機能がある。 新世代E-ドライブ技術では、乗用車および商用車専用に開発された高電圧コンバータを採用し、最高で99.6%という、非常に高い変換効率を実現するという。
これらの特徴を実現する新世代E-ドライブ技術は、ZFの直接の取引先となる自動車メーカーにとっては、軽量・コンパクトなコンポーネントは柔軟な車両設計が可能とするもので、省レアアースは調達の持続性でもメリットがある。電動車のエンドユーザーにとっては、高出力・省電費かつ、より短時間で充電できるクルマを使うことができることになる。
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